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兼松宏行(北部営業基地)
今年の梅雨はいつになく長かったが、その走りのころ、偶然ある事件解決に協力でき、おかげで気分だけは晴れやかに過ごせた。
盗難車の犯人逮捕劇で重要な役どころを演じたのである。
6月4日の午前4時だった。名古屋の天神山交差点(西区)の真ん中で立ち往生している車があった。中央分離帯にぶつけたらしい。すぐ次の交差点でUターンして救助に向かおうとした。
ところがその間、事故車から降りてきた若い男女の行動がなんとも奇妙だった。消火器で車内に消化剤を噴射していたのだ。二人は怪我をした様子もなく、車が出火したわけでもない。
盗難車だなとピンときた。指紋など証拠隠滅のために消火器を用いると、以前テレビ番組でも報じていた。
こうした場合、犯人は徒歩で逃げるかタクシーを利用するのが常とうである。こちらの空車表示灯を見れば、乗ってくるかもしれない。で案の定乗り込んできたのである。車を消火剤で真っ白にして、置き去りにしたまま。
若い男が行く先だけをぶっきらぼうに告げる。最初は名古屋駅、次に一転して大須、と指示がころころと変わった。こちらも無駄口はきかない。バックミラー越しに二人の人相や服装、持ち物などを観察することに専念した。信号待ちのときは、日報に乗車記録を記すふりをして、二人の特徴を書き残した。
たっぷり15分は走ったと思う。男女が降りたのは、洲崎橋にあるラブホテルの前だった。そのホテルに入ったのを確認して、すぐに事故現場へ直行した。すでに警察が到着していたので話は早い。ときを移さず犯人逮捕に結びついた。
後日、聞いたところでは、男はなんと16歳の少年だった。窃盗の常習犯で、20代の女と一緒に盗んだ車で寝泊りしていたらしい。
検挙につながる多大な貢献をしたというので、西警察署長から感謝状もいただいた。
こうした犯罪捜査で果たすタクシーの役割は大きい。なにしろ名鉄交通グループだけで約1300台が市内を走っている。いたるところにドライバーの目が光っているのである。事実、無線を通じて警察から捜査協力の要請が随分ある。タクシーはお客さまを安全、迅速にお送りするだけではない。社会の安全のためにも不可欠な乗り物といえる。身をもって経験しただけに、しみじみそう思う。 |
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