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岩崎晴久(西部営業基地)
ハンドルを握る前は歯科技工士だった。これには育った環境が影響している。母方の祖父も3人の叔父もそろって歯科医だったから、自然、歯に関心をもつことになる。
小学校の時分から、毎食後の歯磨きを欠かさなかった。ランドセルにも歯ブラシをしのばせ、給食のあとでゴシゴシやった。歯の健康優良児で表彰されてからは、将来は歯に関わる職業をと、目標も定まった。で資格を得て歯科技工士を生業とした次第。
この仕事は義歯(入れ歯)を製作したり、歯冠補綴(しかんほてつ)といって、治療した歯にかぶせる冠を作るのが中心となる。
とくに歯冠は超精密加工の技術が要る。かぶせても、歯との間にミクロの隙間があると、すぐまた虫歯になってしまう。
それ以上に大変なのは、すでに失われたもとの歯のカタチを想像して復元しなくてはならないことだ。それがうまくいかないと、かぶせたあとに違和感が残る。患者さんが不満をもらす。歯医者さんは治療より修正に励まなくてはならない。
技工士になった当初は歯科医院勤めだったから、実際に患者さんの話を聞いて作り込んでいった。それが技術に反映して、完全に近い歯冠が作れるようになった。独立して開業したのも、患者さんたちの喜びの声が後押ししてくれたからだ。
ドライバーに転身した今も、お客さまの感謝の声に励まされるというのは、技工士時代と変わらない。
大きく変わったのは、歯科医だけが相手だった以前と違い、今は多彩な職業のお客さまが相手ということだろう。
いや、そもそも学校を出てからこっち、歯科の世界しか知らなかったのである。それだけにお客さまとの会話は勉強になる。以前とは比べようもなく世界が広がっていく。
もちろん会話の中で虫歯が話題にのぼることだってある。中にはハンカチで頬を押さえたまま乗り込まれるお客さまもいらっしゃる。そういう場合は話が早い。症状をお聞きして、ぴったりの歯科医を紹介させていただいている。
そうしたお客さまからは、感謝の声も届いてくる。ハンドルを握りながらお客さまの歯の健康に貢献する。案外、適職を選んだのではと、そう思っている。 |
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