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「パンを作る、というよりパンを育てる。ちょうど赤ちゃんを手塩にかけるみたいに。これが極意」と、宮守さん。
ことパン作りの話になると表情がゆるむ。柔和な目がもっとやさしくなる。ドライバーに転身する前は20年以上もパン生地とつき合っていたそうですから、思いがあふれるのも道理でしょう。
きっかけは名古屋の大手パンメーカーへの就職。「ちょうどオーブンフレッシュベーカリーのブームに火がついたころ。会社がその多店舗展開をめざしたんです。で、お店の一つを担当して」
店内でパンを焼き上げ、湯気の立ち昇る出来立てを店頭に並べる。これがオーブンフレッシュベーカリー。宮守さんはそこで生地の仕込みから店先での接客術まで一切を身につけました。
となると、次は自分の城をと奮い立つのが人情というもの。独立への思いは、それこそパンのようにふくらんでいったそうです。
「そこで昭和62年、安城市内のスーパーの店内に出店を」
けれどこの仕事、はたで見るほどラクじゃありません。朝6時から小麦粉を練る。90分寝かせて、4倍にふくらんだ生地を商品サイズに分ける。アンやジャムを詰める。再び寝かせて発酵させ、オーブンで焼成。ここまでざっと5時間。
それを1日に何度も繰り返すわけです。お客の流れを見て、仕込み時間をずらしながら段階的に。
店先から漂う焼きたての香ばしい匂い。そこにたどり着くまでには、大変な時間と労力が必要なんですね。
「パンは発酵が決め手なんです。生きたイースト菌をやさしくお守をしていく。子育ての気持ちで心をこめて。その思いやりがあれば絶対おいしいパンができます」
とりわけの自信作が食パン。卵も牛乳も使わない。「思いやり」だけを練りこんで育てた味は、岐阜や三重県からもお客が押しかけるほどだったとか。
平成11年に、惜しまれつつ店を閉じた宮守さんですが、「パンもタクシードライバーも思いやりが大切。今では趣味の話題や最近のニュースなどをていねいに“仕込んで”お客さまに気持ちよく利用していただく。これを心がけているんです」
なるほど。何であれ仕事は「仕込み」が肝心。パン職人時代の心意気は、今なお健在というわけです。 |
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