この記事は2004年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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加藤常裕(南部第1営業基地)
  レース鳩をご存じかどうか。伝書鳩の、驚異的な帰巣本能に眼をつけ、その飛翔力の優劣を競うのである。
 文化センターの講座に名を連ねることはまずないから、まあ、モノズキの部類といえる。

 そのレース鳩に夢中になって四十数年が過ぎた。きっかけは小学3年のとき。隣家の庭先に鳩舎があり、いつも学校帰りに覗き込んでいた。その熱心さに飼主のほうが根負けしたのか、ひとつがいの伝書鳩をプレゼントしてくれた。

 鳩は毎年6回ヒナをかえす。6年生のころには、30羽に増えた。その鳩たちを自転車で郊外まで運んで一斉に放し、猛スピードで帰宅する。で、すでに鳩舎に帰還している鳩たちを確かめ、思わず会心の笑みをもらすのである。

 鳩のスピードは時速80キロにも及ぶし、飛翔距離も想像を絶する。レースでは北海道の宗谷岬から名古屋まで1200キロを18時間で帰ってくる。

 レースには20歳から本格的に参加した。100羽に余る飼い鳩を毎日、日の出とともに舎外に放ち調教する。みっちりトレーニングを積み、筋力もたくましい愛鳩たちを遠方のスタート地点へ送り込む。で、こちらはゴールの自宅鳩舎で待つのである。やがて、はるかな上空に待ち望んだ黒い点が現れる。翼をしぼって、まるで弾丸のような形で鳩舎をめがけて一直線に飛んでくる。その姿は感動的で、胸に迫ってくる。

 その感動を味わいたくて、国内はもちろんソウルや上海の海外レースにも参加してきた。幾度か優勝も経験している。

 現在は昔と違い、住宅事情が一変したから、郊外の飼育条件の整った場所でなくては伝書鳩も飼えなくなった。だから、よほど珍しいと思われるのだろう。営業車の自己紹介カードの趣味欄を見たお客さまは、10人が10人、必ず質問を投げかけてくる。鳩が愛くるしく優しいイメージだからか、とりわけ女性のお客さまは、こちらの話を身を乗り出すようにして聞いてくれる。降車地が遠方のお客さまには、伝書鳩の特性から飼い方、調教の仕方まで解説し、大いに喜ばれたこともあった。

 実はハンドルを握って5年、レースは中断している。けれどもお客さまと鳩の話題で盛り上がるたび、レースへの意欲がまたもや膨らんできた。復活をめざし、まずは最強の選手育成に取りかからなくては……。



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