この記事は2004年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。
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聞き手(名鉄交通社長)
金子暁男 |
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第1回マルタ・アルゲリッチ国際ピアノコンクール(1999年)で優勝後、期待の大型新人として本格的な活動を始めた広瀬悦子さん。「テクニックを超えた情熱と気迫」と絶賛され、2月発売のCDはもちろん、リサイタルも各地で好評です。生まれ育った名古屋からパリに飛んだのは弱冠15歳のとき。タクシー経験も、外国が印象的でした。 金子 3歳からピアノをお始めになったそうですね。それはどなたかのお導きがあって? 広瀬 母が昔、ピアノをやっていまして、娘にもやらせたいと思ったらしくて。生後1カ月のころから毎日、朝から晩までクラシックのレコードを聴かされて育ったんですね。それで家にピアノがあったものですから、自然に「やりたい」と。 金子 6歳にはもうモーツァルトの「戴冠式」を演奏されたそうで。そんなころから毎日、何時間も練習されたんですか。 広瀬 そうですね。6歳のころは意識もなくて、言われるままにやっている感じだったんですけど。小学校低学年のころは毎日3時間くらい、高学年になると4、5時間は弾いていました。高学年から中学を卒業するまでは、浜松の先生のところにも月2回、通って。 金子 中学のころから、国際コンクールで優勝されていらっしゃいますもんね。「もう嫌だ、遊びたい」と思われたことはございませんでした? 広瀬 たまには遊んでました(笑)。でも空気を吸っているのと同じくらい、弾いてるのが当たり前みたいな感じだったので。うまくなりたい気持ちもすごくあったし、嫌だと思ったことはないですね。 金子 中学を卒業されてからは、パリの音楽院に留学を。 広瀬 はい。他の道はすべて捨てて、ピアノ1本でやろうと決心して行ったので。1年間くらいは語学学校に通いながら、レッスンを続けて。そのときが一番大変でした。 金子 日本の音楽学校とは随分違います? 広瀬 向うの先生というのは演奏家が兼業で先生をやっているみたいな感じで、教えることにあんまり熱心じゃないんですよ。だからどん欲に吸収しないとどんどん置いていかれるみたいな感じで。 金子 ほお。 広瀬 でも日本の先生のように「ああしなさい」「こうしなさい」というのじゃなく、自発的な音楽を尊重してくれるんです。「先生の真似はするな、自分の魂から音楽を語りなさい」という教え方なので。そういうやり方が私は好きで、音楽をやっていく上でとてもプラスになりましたね。 金子 なるほど。パリの街はどうでした? 広瀬 すごく好きです。街自体が芸術品みたいですし、美術館もたくさんあるので、いろんな刺激を受けられて。決心して行ってよかったなと思いますね。 金子 フランスでタクシーにお乗りになって、何かユニークなご経験はおありですか。 広瀬 留学したときは学生の身分なので、あんまり乗らなかったんですけど。逆にフランスからよその国に演奏で行ったときに、乗る機会が多くて。日本のタクシーは清潔で安全なんですけど、外国で乗ると、外見からして日本人だと分かってしまいますから、「遠回りされるんじゃないか」とか。 金子 警戒するわけですね。 広瀬 ええ。一番怖かったのはアルゼンチン。観光の日本人はいないんですよね。で、移住された日系2世、3世の方に、「タクシーには乗るな、ナイフ突きつけられて、身包みはがされるよ」って言われて。 金子 ほお。 広瀬 そういう方たちと一緒に乗ると、「次の道を右に曲がって」「次を左に」って全部指図するんです。「あなたも乗るときには、必ずこうしなくちゃダメよ」って。 金子 言葉ができないといけませんね。 広瀬 そうなんです。でもフランス語とスペイン語は結構、似てるし、向うの道は縦横はっきりしてて、通りに名前がついているので、地図を見れば分かるんですね。だから頑張ってスペイン語の地図を読んで、研究して、「ここ曲がって!」とか、スペイン語でまくし立ててました。 金子 市民の方たちはどうですか。ラテン系で乗りがいいでしょうから、演奏会などはいい雰囲気なんじゃないですか。 広瀬 そうですね。コンクールなんかでも、予選なんかだと普通はシラーッと冷めてるんですけど、アルゼンチンの方たちは本当に音楽が好きなんだなというのがよく分かって。反応をストレートに表現するんですね。陽気だし。だから弾いてて気持ちいいし、力をもらえるし。こっちも乗せられて弾けるので、うれしかったですね。 金子 そうでしょうね。日本のタクシーでは、何か印象深いご経験はおありですか。 広瀬 私一人で乗ってたとき、運転手のおじさんが、いきなり身の上話をされて(笑)。お母さんが亡くなって、故郷に帰りづらくなったけど、何とかでって。でも話の上手な人で、つい引き込まれて、自分の嫌なことも忘れちゃったみたいな。 金子 ファーストアルバム「シャコンヌ」も楽しく聴かせていただきました。聴いたことのある曲がたくさんありましたね。広瀬 そうですね。最近、クラシックを聴く方が少なくなってしまったんですけど、こういうなじみのある曲だと聴きやすいかなと。一人でも多くの方に、クラシックの魅力を再認識していただきたいなと思っているんですよ。 金子 クラシック以外のジャンルは、お考えではないんですか。 広瀬 はい、クラシックだけで勝負できたらいいなと。100年、200年前に作曲された曲でも、今も全然すたれることなく、感動したり、美しいと思ったり、慰められたり、そういう魅力とか力があると思うんですよね。それを受け継いで、皆に分かってもらいたいなというのがあって。自分の最大の魅力を出せるのも、クラシックだと思っているので。 金子 なるほど。これからのご予定はどうですか。 広瀬 11月27日(土)に名古屋の熱田文化小劇場でリサイタルを開きます。来年には2枚目のアルバムもリリースする予定です。 金子 楽しみですね。名古屋のご出身ということもありますし、今後のご活躍を期待しています。今日は楽しいお話をどうもありがとうございました。 ひろせ・えつこ 名古屋市千種区出身。若水中学卒業。3歳から才能教育研究会でピアノを始め、92年モスクワ青少年ショパンピアノコンクール優勝。パリ・エコールノルマル音楽院を経てパリ国立高等音楽院へ。在学中、国際コンクール入賞多数。各国でリサイタルを行い、NHK交響楽団はじめ内外のオーケストラとも多数共演。11月27日のリサイタルは午後2時開演。問い合わせはアルマ音楽企画TEL090・1236・1497まで。 HOME>INTERVIEW私のタクシー体験TOP |
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