この記事は2005年6月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

HOME>INTERVIEW私のタクシー体験
聞き手(名鉄交通社長)
金子暁男


中国出身の二胡奏者として、名古屋を拠点にテレビやステージで演奏活躍されるチャン・ビンさん。愛知万博でも6月13日に、教え子120人との大合奏を披露します。心の芯を揺さぶるその音色は、ご本人の温かな人柄そのもの。対談でも気さくに曲を聴かせてくださいました。


金子 アルバムをお聴きしました。本当に心にしみる音色で。うちの会社にも、趣味で二胡を習っている社員がいるんですけど、なかなか音が出ないんだそうですね。
チャン この楽器はね、弓を引く速度を、体の呼吸のスピードとかリズムに合わせる。これ一番大事。そしたら音が落ち着きます。
金子 なるほど。弓は何でできているんですか。
チャン 馬のシッポです。琴筒(ことづつ)はニシキヘビの皮。上は黒檀(こくたん)で、アタマに彫ってあるのは竜です。
金子 彫刻がまた精巧ですね。透かし彫りのような。
チャン これは上海で特別に作ってもらった。「まけてください」と言ったけど、負けてくれなかった(笑)。最近は値段がどんどん上がっています。
金子 プロフィールを拝見しますと、7歳から二胡を学ばれたそうですね。それは何かきっかけがあって…?
チャン 中国は文化大革命のとき、都市に生まれた子は必ず田舎に行って、米はどうやってできるかを学んだんです。農民と一緒に3年くらい。帰って来れない人もいた。だから親は、できたら音楽でプロとしてやっていったらと。いろんな楽器を始めたんですね。
金子 なるほど。
チャン そして私の家の隣の方は、二胡のプロでした。朝まだ暗いうちに子供をたくさん連れて、山に行って、歌とか楽器の練習したんです。
金子 プロになられたのが、18歳のときだそうですね。
チャン はい。高校終わってから鞍山市の歌舞劇団に入って、プロ奏者になりました。それから南京の国立歌舞劇団に。国のエリートの立場で、給料も高い。でも3年目のとき、やめて日本に行ってみたいと。

金子 なぜ日本だったんですか?
チャン 小さいころテレビよく見たんです。「赤いシリーズ」とか「アタックNo.1」とか(笑)。感動して日本が好きになった。
金子 そうなんですか。
チャン あとは小学校のとき、日中友好代表団の歓迎会で、日本の曲よく演奏した。「北国の春」とか「さくら」、「四季の歌」…。それで日本の曲にも興味持って。
金子 日本にいらしたのは、おいくつのときだったんですか。
チャン 24歳です。日本語学校で勉強して、それから名古屋芸術大学入って。でも来てからね、思ったより苦労した。ひとつは日本語が分からない。もうひとつは月謝が高い。日本語学校1年で、お金がほとんどなくなった。アルバイトしなきゃいけない。でも音楽以外は何もできないし、言葉が分からないし、どうしましょうと。あのときは夢は何もなかったです。(笑)
金子 どんなアルバイトをなさいました?
チャン 何でもしました。食堂で揚げ物するとか、茶わん洗うとか。ホールで「いらっしゃいませ」やってたこともあるし。日本でたくさんのこと経験した。それで二胡の音色も変わってきました。
金子 人生経験が二胡の音色を変えたと?
チャン うん。私は日本に来てよかった。一番よかったのは、たくさんいい出会いできた。日本の人は皆、温かい。それと二胡の曲に感動してくれる方が結構いらっしゃって。コンサートで「月の砂漠」とか、「赤とんぼ」とかやると皆、涙流して…。
金子 すばらしいことですね―。
チャン そして5年前、芸術家のビザ取ったとき思ったのは、二胡はたくさんの人が習いたい。その人たちに教えて、一緒に万博で演奏できたらいいなと。
金子 実際、今度万博で演奏されるんですね。
チャン はい。日中文化協会のおかげで、6月13日に。日本人120人の大合奏は初めて。二胡の合奏団として世界の万博に出るのも初めてです。年齢は7歳から70何歳までいます。

金子 お仕事柄、タクシーにお乗りになることも多いでしょうね。
チャン このごろはよく乗ります。昔はジュース1本買うときも、よーく考えていた(笑)。名タクはよく利用しますね。乗ると「私は○○といいます」とか、ていねい感があって。荷物を運ぶときも協力してくれて、サービス精神が違いますね。温かい。東京から帰って来て「今日は荷物多いから名タクにしよう」と思いますね。
金子 ありがとうございます。中国のタクシーはどうなんですか。
チャン 日本と比べるとまだまだですね。でも昔よりよくなってきました。今は大きな都市は大体、大丈夫です。小さい町だと、「100元かかる」「80元でどうですか?」「いいよ」というところがまだあるんですよ。でも基本的にはメーターですね。
金子 私は一昨年、青島(チンタオ)に行きました。きれいでいい街だったですねー。青島ビールも飲んできました。(笑)
チャン そうですか。私は演奏で3回行きました。きれいですね。
金子 朝、散歩したら、太極拳をやってらっしゃった。
チャン 退職すると…日本人は勉強好きですね。年配の方も一生懸命、楽器弾く。私はそれ見て逆に感動する。中国では土日とか夕方になると公園で、朝は太極拳、夕方は踊り。テープレコーダー置いて、ボランティアの先生が教えてやっている。今はどこでも多いね。

金子 最近はどのくらいコンサートをおやりなんですか。
チャン 多いときは月に10何回ありますし…大体5、6回。最近はモノつくるのを中心にしている。できたら将来は、日本のいい曲を中国に伝えたいです。音楽を通じて、中国と日本と、もっと交流できるようにと。
金子 今はいろいろ問題があるだけに、ぜひ先生のお力をちょうだいして…。
チャン 国民の心はね、一緒だと思いますね。私たちの世代は戦争のこととか全然知らない。昔のことは置いといて、これからのことをね。日本と中国は仲良くなると思う。
金子 日本の食べ物はいかがですか。
チャン 割と好きです。最初は刺身が慣れなくてね。でも慣れてきた。
金子 納豆なんかも大丈夫ですか。
チャン うん、好きですよ。刺身も週に1回は食べる。お客さんと一緒に食事するときはいつも日本料理ね。
金子 そうですか。今日は楽しいお話しをありがとうございました。これからのご活躍を期待しています。


ちゃん・びん
中国遼寧省(りょうねんしょう)生まれ。 18歳から鞍山市歌舞劇団、中国南京前線(高等)歌舞劇団で活躍。1992年に来日、名古屋芸術大学を卒業後、愛知県立芸術大学で研究生として作曲専攻。 現在は毎土曜放送のCBCテレビ「サタデー生ワイド」の「胡弓の旅」にレギュラー出演。昨年、夏川りみのアルバム「風の道」収録の「海の手招き」を作曲。今年2月サードアルバム「ORIENTAL SWEET LOVERS」を発売。6月13日(月)PM2:30から愛知万博の長久手会場EXPOドームに出演。

HOMEINTERVIEW私のタクシー体験TOP