この記事は2006年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。
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聞き手(名鉄交通社長)
金子暁男 |
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ベトナムの風景をモチーフにした作品を精力的に制作し、日本だけでなく現地でも作品展を開いている愛知県清須市在住の型染作家・鳥羽美花さん。ベトナムでは「見慣れた風景の美しさに気づかされた」と絶賛され、昨年はベトナムの文化功労賞を受章しています。名古屋でのタクシー体験談も、やっぱりベトナムがらみでした。 金子 型染の道を選ばれたきっかけは、何だったんですか。 鳥羽 京都の芸術大学で、型染の技法を教えてもらったときに、私はとても魅力を感じたんですね。というのは、型染は日本で生まれて海外に出ていないんです。日本人にしかできないものなんですね。 金子 そうなんですか。 鳥羽 それと筆で直接描いていくのではなくて、1回描いてからわざわざ刀で型紙を彫り起こして、糊を置いて、染めて、蒸してという、多岐にわたるプロセスがあるんですね。その最終的な仕上がりは、型染でなければ表現できないというのが面白かったんです。筆で描くのとは逆に、色をつけない空間から彫っていくものですから、その思想は欧米諸国にはないんですね。 金子 なるほど。 鳥羽 奈良時代から続く技法なんですけれど、私の場合は、絵画のなかに伝統的な技法を持ち込んだという意味では、新しいのかもしれないです。大きいのですと縦7メートル、横2メートルくらいの、壁画のようなんですね。 金子 ベトナムをテーマにされていらっしゃいますが、私たちにはベトナム戦争以外は、あまりなじみがない国なんですね。何か思いがおありだったんですか。 鳥羽 大学で型染を習ったときのテーマはいわゆる花鳥風月で、私も花をやっていたんですけれど、「新しいものを見つけたい、風景をやってみたい」と思い始めて。私もベトナムというとモノクロ映像のイメージしかなかったんですけど、それだから「行ってみたい」と思ったのです。 金子 ほう。 鳥羽 最初にホーチミンに行ったのが94年なんですけど、経済発展で沸き立っていたときで、自分の「変わりたい」という気持ちとベトナム人のパワーが、重なったと思うんですね。で、「こんないい風景がいっぱいあるのに、経済発展の裏で壊されていく。作品に残したい」ということで、「次の風景を」「次を」とやっているうちに、気づいたら10年経っていて。 金子 ベトナムの人たちはいかがですか。 鳥羽 すごく勉強家ですね、若い人は。私のとても好きなのは、全く後ろを振り返らなくて、前だけ見ているところです。最初の作品のタイトルが「遠い視線」というのですけれど、この国の人たちは遠い将来に視線があるのだなと。 金子 作品に人はお描きにならないんですね。 鳥羽 はい。深い作品を作るためには、人を入れずに、今まで生きてきた人たちを全部、風景の中に人格化したいと思いました。 金子 しかし本当に色がきれいで、心が洗われる感じがします。 鳥羽 いわゆるきれいじゃない風景も、私は魅力的だと思っているわけですから、作品になるときれいになるんですね。それが向こうの方たちは不思議に思われたみたいで。それに型染の技法にも随分興味を持たれて、新聞の評に「日本らしい勤勉な技術」と。(笑) 金子 制作中の作業は「3Kだ」とおっしゃっていますが、拝見していると本当にそうですね。鳥羽 ええ、裏はね(笑)。本人は楽しくてやっているんですけど。ただ自分がその風景の前に立ったときに感動したわけですから、作品の前に立ったときに、また別の風景が現れてくるような空間にしたいと思って、大きな作品を。しかも刀で彫ってという、時代に逆行したことをやっているんですけど。(笑) 金子 (ベトナムの)フエでの展覧会のときは、屏風になさったんですね。 鳥羽 タペストリーにしたり、屏風にしたり‥。海外で展覧会をやるとなると、大きな壁画のようなものは飛行機で運べないので。 金子 屏風というのは、東洋独特のものですね。 鳥羽 そうですね。あの形態もあちらで「面白い!」と言われました。屏風は角でもどこでも会場になるという利点がありますね。これも日本人の知恵なんですね。季節によってたたんで収納して、また別の絵を飾ってという。私は海外に出て、日本のよさがよく分かりました。 金子 本当ですね。ベトナムではタクシーにお乗りになられましたか。 鳥羽 はい。私はよその国に行くと、タクシーでザーッと街を走ってもらって、「いいな」と思った風景を探すんですね。で、最初にホーチミンに行ったときは、タクシーも少しありましたけれども、シクロ(輪タク、人力車)が街中を走っていまして。シクロに何時間も乗って、というような旅をしていました。でも発展とともにシクロもどんどんなくなって。今はタクシーが随分走っていますので、手を上げれば止まってくれます。 金子 いかがですか、ベトナムのタクシーは。 鳥羽 日本のようにきれいですし、メーターもきちんとついています。一人旅でも安心でしたね。 金子 現地の方たちもお乗りになるんですか。 鳥羽 乗らないと思います。やっぱり贅沢品ですのでね。交通手段というと、バイクが波のように走っていて。それなりのクラスの方になると、お抱え運転手さんがいらっしゃるし‥。 金子 なるほど。 鳥羽 私はベトナムで展覧会をやろうというので、頻繁に交渉に行っていたときにですね。名古屋駅に帰ってきて、タクシーで自宅までの行き先を告げたら、「ベトナムの方?」と言われたんです。(笑) 金子 ほう。 鳥羽 私はすごく感動しましてね。自分がそこまで日本じゃない雰囲気を持ち込めたのと、運転手さんの感覚の鋭さに。「顔立ちなどがよく似ている」とおっしゃったんですけど。中国の昆明とか、あの辺りにとても詳しい運転手さんでした。 金子 今後の制作のご予定は。鳥羽 昨年、ベトナムのフエ王宮で展覧会をしたのは、一つの段落になったと思うんですね。で、この前、アフリカのモロッコをグルッと一周してきたんです。なぜかというと、ベトナムはとても湿度が高くて、その活気と熱気を型染でどれだけ細かく彫り込めるかというのを、自分の挑戦課題に与えてきた。では全く湿度のない、砂漠のあるようなところに行ったら、自分の表現がどう変わるかという、新しい課題を出したいと。来年の4、5月に名古屋の古川美術館で展覧会を開くのですが、湿度の違いを作品にしようと思います。 金子 新しい世界を楽しみにしています。今日はありがとうございました。 とば・みか 1961(昭和36)年生まれ、愛知県出身。京都市立芸術大学卒、同大学院修了。1994年からベトナムをテーマに制作活動。代表的な作品展として「型染とベトナムの風景」、「古都に奏でる悠久の心―フエ」がある。受賞多数。日展会友、日本新工芸家連盟会員、京都精華大学芸術学部助教授。 HOME>INTERVIEW私のタクシー体験TOP |
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