|
「雨の日が大好き。それも篠つくような土砂降りが」とニコニコ笑う山内さん(55)。一風変わった好みですが、理由はとてもわかりやすい。「雨が降ると人の気配が魚に伝わりにくい。釣りには好都合」というわけ。これだけで山内さんの釣り好きが並じゃないことがわかります。獲物も魚屋の店先みたいにあれもこれもと手を出さない。狙うのはクロダイだけ。
「釣りを始めたのは23年前。友人から道具をもらったのがきっかけ。それがクロダイ専用だったんです」
で、山内さん、早速もらった釣り竿をかついで一人で知多半島の堤防へ。釣りの知識はもちろんゼロ。大雑把な友人のアドバイスのみ。
堤防は海上からの高さが4メートル。「なのに歩ける幅は40センチしかない、厚みのある塀みたいなもの。そこを釣り人たちが擦れ違うんです」。
この足がすくみそうな堤防の壁に貼りついた貝やカニを食べにクロダイがやってくる。 「浮きを使わず独特の仕掛けの糸を壁に沿って垂直に垂らす。心の準備をしていないと、かすかな当たりに指先が反応しません。ダメならすぐ移動します」
デリケートで、しかもノンビリできないんですね、クロダイ釣りは。もちろん先の山内さんのセリフはすご腕になってからのもの。ところが何も知らなかったデビュー戦で、山内さんはクロダイを釣り上げてしまいます。それも40センチの大物。以来のめり込むのは当然です。釣りクラブに入会する。はるばる姫路港の堤防に行く。イカダ釣り、磯釣りと幅も広げる。各地の大会でも常連になる。
「それでもクロダイ一筋。何しろ姿が美しい。睨んだ場所で工夫をこらした仕掛け糸を操る、相手との知恵比べも楽しい。当たりの感触が指先に走り、竿を上げるでしょう。あざやかな銀色の縦じまが海面にきらめく。ほれぼれしますよ」
熱が高じて、山内さんはとうとう釣り竿を自分で作り始めてしまったそうです。
「布袋竹や矢竹を採集して1年以上乾燥させて」
その竹を火であぶり、まっすぐに伸ばし、節を抜いて、漆がけをして…。すべて独学。1本仕上げるのに半年。 「家の中がグラインダーの粉で真っ白に。家内に大目玉を食らいました(笑)」。幾多の困難? を乗り越えて完成した作品はすでに10本。注文も多いそうですから、その出来栄えのほどが伺えます。
「最近は仕事が忙しくて、竿作りどころか釣りもできません。仕掛けのアイデアだけがたまる一方で。老後は妻を餌屋にして、自分は釣りの指導員になれれば」とニッコリ。雨が好きというときと同じ笑顔がはじけました。 |
|
|