この記事は2006年12月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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 船舶調理師として15年近く海外航路の貨物船に乗っていた営業係(乗務員)の原三郎さん(58歳)。世界中の港のある都市にはほとんど行ったという貴重な経験を持っていますが、得意技といえばやはり料理。レパートリーの広さは陸のコックさんとはケタ違いです。

 というのも原さんが乗船していたのは昭和40〜50年代で、海運業が華やかな頃。乗組員も60人ほどいて、船長をはじめとする上級職クラス、機関長などの下士官クラス、甲板員たちのクルークラスに別れ、食堂も食事の内容も別々でした。

 たとえば上級職クラスの食事は英国式マナーにのっとり、音楽が流れるなか、調理師たちがウェーターとして、つきっきりでサービスします。そして供する料理は、ディナーならフレンチのコース料理を中心に、和食、中華、イタリアンなどなど…。

 クラスが変わると少しずつメニューも変わり、それを毎食、数人の調理師たちで作るのです。

 「ですからフランス料理を極めるとか、イタリアンの真髄を知るというわけにはいきませんが、覚えた料理の品数は計り知れないですね」と原さん。

 しかもお正月には三段重のおせち料理、端午の節句には柏餅や粽(ちまき)というように、日本の伝統行事に合わせた料理や、和菓子、洋菓子などのおやつも作ってしまいます。

 「何カ月も海しか見えない生活をしていると、日にちの感覚がなくなってしまうんですね。それで日本の伝統行事を大切にして、日にちを忘れないようにするんです。海の男の知恵ですね」

 料理の腕前は陸に上がった今も健在で、家庭での毎日の食事作りは原さんの係。お正月には原さん特製のおせちを心待ちにしている知人家族もあるそうです。ちなみに料理のコツは「相手が喜んでくれる顔を思い浮かべて作ること」。それに尽きるそうです。

 船に乗っていた期間より、すでにタクシーに乗っている期間のほうが長くなりましたが、今も体に染みついているのが、海難に備えた危機管理能力。

 「今でも、ここで万一のことが起こったら、自分はまず何をすべきか。いつもそれを考えながら乗務しています」。そのせいかどうか、原さんは長年、無事故、無違反、無苦情を続ける優良ドライバーでもあります。



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