この記事は2007年3月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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松岡 大士(南部第1営業基地)
 外国人のお客さまが増えてきた。日に一組は必ずといっていいほど乗車される。名古屋もつくづく国際化したものだと思う。

 洋の東西を問わない。さまざまな国の人たちをお乗せするが、言葉は違っても共通した仕草がひとつある。

 それは乗車の際、ほとんどの人が自分でドアを開けて乗り込もうとすることだ。世界では自動ドアはどうやら当たり前のサービスじゃないらしい。それに気づかされたのはヨーロッパからの観光客が最初だった。勝手にドアが開いてさぞ驚いただろうが、こちらだって同じくらいびっくりした。

 以来、後部ドアの前で手をのばす人を見ると、ハハア来日まもないお客さまだな、と察しがつく。

 もちろん座席にお座りいただいたあとは、さまざまなお国柄に接することになる。運賃をお釣りのないようにぴったりと揃えてくれるのは韓国の人に多い。逆にアメリカのお客さまは大きな札をハイこれでと差し出す。前者の場合は思いやりの精神、後者からはドライバーへの信頼感がほの見えるようだ。

 文化について学ばせられることも多い。

 中年の中国人男性をお乗せしたときのこと。都心の中華料理店までと告げられたが、昼食にはまだ早い時刻だったから、おそらくお店の人に違いない。

 信号待ちのとき、そのお客さまが公園のハトの群れを見て、うまそうだなあとつぶやいたのである。思わず問い返し、それが食文化の講義開始の合図になった。

 中国には「民以食為天」(民は食をもって天となす)という考えがあるそうだ。だから中華料理が発展したし「食べましたか」が日常的なあいさつにもなったという。「食事中に来客があると日本人は応接間に待たせますね。中国では食卓に連れてきて一緒に食べます」

 食物も見た目だけで区別しない。したがって食材豊富な南方の広東料理ともなればヘビも昆虫もハトも一般的メニューとなる次第。 中国食文化の底深さと柔軟さに改めて感じ入った。柔軟にわけへだてなく。この精神はタクシーの接遇にも大いに採り入れたいところだ。とくに増える一方の外国人のお客さまに気持ちよく利用していただければ、国際親善にも役立つ。

 で、柔軟対応の手始めに、あいさつをそれぞれお国の言葉でと練習を始めた。公園のハトがきっかけで、仕事の充実度が増したような具合になった。



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