この記事は2007年3月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。
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聞き手(名鉄交通社長)
金子暁男 |
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ルイ・ヴィトンやエルメス、シャネルといったブランドが、なぜブランドであり続けられるのかを解き明かす『ブランドの条件』(岩波新書)の著者、山田登世子さん。愛知淑徳大学の教授でもあり、メディア文化史について教鞭を執っていらっしゃいます。「名タクはブランド」とお褒めいただいたものの、苦言もちょっぴり・・・。 金子 名タクをよくご利用いただいていると伺いましたが…。 山田 私は長年にわたるユーザーですよ。もともと何となく免許を取らなかったんですが、今ではマイカーを一生持たないという決意を、夫婦ともにしまして。それが最も先端的な生き方だろうと。ですから名タクはいつも利用しています。 金子 ありがとうございます。私どものグループタクシーは全国に28社ございまして、「地域から愛される信頼のトップブランドになろう」という経営理念を掲げております。そこでブランドというのはそもそも何だろう、サービス産業にブランドはあるのだろうかと思いまして、先生の本を読ませていただいたわけですけれども。 山田 名タクはまぎれもない名古屋のブランドですよ。私がなぜ名タクの番号を登録しているかというと、やはり安心だからです。乗って行き先を言えば、もう何も考えず授業の予習をすればいい(笑)。ところが最近、「名タクらしくない」と思ったことがあるんですよ。「長久手の淑徳大学にお願いします」と言ったら、「場所が分かりません」と言われたんです。運転手さんが道を知っているのは、最低条件ですよね。ですから「名タクは大丈夫かな」と。 金子 おっしゃるとおりですね。 山田 名タクはピシッと礼儀正しくて、他の会社と全然違うんですよ。「今日は名タクに乗っているんだわ」という、あの感じ。それを私たちユーザーは買いたいんです。ですからもっと、「自分は名タクの運転手だ」ということに誇りを持っていただいて…。これは対談ではなくて、ユーザーの要望?(笑) 金子 先生の本で一番印象に残ったのが、「変わらないためには、すべてが変わらなければならない」というところでした。山田 「何も変わらない」という感じを相手に与えるためには、変わらなければならないんです。なぜかというと、時代とともに相手が変わるから。堺屋太一さんの本に書かれている話なんですが、「虎や」の羊羹。昔と同じ味を売り物にしているけれど、実は同じ味ではないんですね。「同じ」と感じさせるために、現代人の味覚に合わせて変えているんだそうです。ブランドの鏡ですよね。 金子 本当ですね。 山田 同じクオリティを保つために、同じことをやっていてはだめなんです。時代はドラスチックに変わっていますから。特に大きいブランドであればあるほど、キープするのに倍旧の努力がいると拝察いたします。 金子 実は私どもは現在、運賃改定を申請しているんですが、初乗りを1.3キロ500円に設定しているんですよ。タクシーというのは近いところこそ乗るもので、これに徹したいと。 山田 それはすごいアイディアですね。高齢化社会のニーズにぴったり。高くてもいいから短距離を乗せてほしいという人は、身近にいっぱいいますよ。 金子 海外のタクシーで、印象的なことはございますか。 山田 パリはアドレスが分かりやすくて、素人でもたどり着ける街なんですね。セーヌ川の上流を起点にして、道のこちら側は奇数番地、あちら側は偶数番地と決まっているんです。 金子 京都に似ているんですね。 山田 そう、そう。ですからタクシーは、アドレスを見せれば黙って連れて行ってくれるので有名だったんです。で、資格試験もかなり難しくて、ドライバーはすごい誇りを持っていたんですね。でもここ10年くらい、試験の質が下がって、ドライバーがだんだんアマチュア化して。フランス人のドライバーがほとんどいなくなったことも要因のようですが。 金子 そうですか。 山田 東京でも、昔は誇りを持っているドライバーがたくさんいらっしゃったんですけど、やはりアマチュア化が進んでいます。今もいないことはないですけどね、名古屋でも。名東区の辺りは結構、裏道があって、超裏ワザを発揮する方がいらっしゃるんです。こちらも楽しいですし、運転手さんもそれが快感。これは給料には替えられないですよね。 金子 ご出身は、九州だそうですね。 山田 はい。福岡県の田川市。筑豊炭田地帯です。 金子 ほう。(五木寛之著の)「青春の門」の舞台ですね。 山田 そうです。ボタ山を背景に育ちました。高校の一年後輩が井上陽水。タモリも近くです。ああいうノリなんです、九州人は。リリー・フランキーの「東京タワー」なんて、もろ私の世界ですよ。「おかん」のキャラクターは、私の姉にそっくり。気がよくて大げさで、世話好きで(笑)。 金子 フランス文学がご専門だそうですが、ブランドの研究にお取り組みになったというのは…。 山田 アカデミズムの世界にもはやりすたりがありまして、今は作家研究よりも、文学のベースになっている文化をやるという潮流が、ある種のブランドになっているんです。で、私はそちらの方が面白いものですから。 金子 文化史のようなものですね。 山田 そうです。ですから19世紀を専門に、いろいろな文化を研究しています。リゾートですとか。リゾートというのは旅でして、そこでルイ・ヴィトンと出会ったんです。もともと王侯貴族の旅のトランクですから。そしてファッション関係は、自分の好きが高じて…。 金子 なるほど。 山田 そうしたら淑徳大学も時代のウエーブのなかにあって、歴史ある名門女子大だったのが、共学になったんです。そして、「文学ではないものを教えてほしい」と言われまして。大学のニーズと、自分の内発的な「文化が面白い」というのがマッチしたんですね。 金子 テストはどういうことをなさるんですか。 山田 私は抜き打ちテストをやる主義です。例えば、「前の授業の内容を体験に即して書きなさい」という設問ですね。それとフリーコメント。何でもいいから書いてと。 金子 それはいいですね。 山田 そうしたらね、「先生が昨日着ていた服のブランドは何ですか、お値段は」とか(笑)。でも時々面白い情報が得られます。やはりすべてのことは、現場が大事なんです。授業でもタクシーでも。いつもイロハが新鮮じゃないと、物事が成り行かないですね。 金子 そうですね。今日はお忙しいところ、貴重なお話しをありがとうございました。今後とも、乗務員が誇りを持って仕事をできるようにしてまいりたいと存じます。 [やまだ・とよこ] 1946年、福岡県生まれ。名古屋大学文学部フランス文学科大学院卒業。ファッション、ブランド、メディア、リゾートなど、近代フランス文化史をベースにした著書多数。昨年は『ブランドの条件』(岩波新書)の他、『モードの帝国』(ちくま学芸文庫)、『晶子とシャネル』などを刊行。名古屋市在住。 HOME>INTERVIEW私のタクシー体験TOP |
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