この記事は2007年6月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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聞き手(名鉄交通社長)
金子暁男

米国ボストン美術館の姉妹館として、世界屈指の美術コレクションの中から選ばれた作品を魅力的なテーマのもとに紹介している名古屋ボストン美術館。その4代目館長を昨年10月から務められている馬場駿吉さん(74)。医師でありながら俳句や美術にも造詣が深く、句集や美術論集も多数発表されています。一時は存続かどうかで揺れた美術館でしたが、今後によせる熱い思いを語ってくださいました。


金子 館長をお引き受けになられた経緯は、どのようなことだったんですか。
馬場 私もお話しをいただいて、最初はとまどったんですけれどね。運営難については新聞報道などで知っていましたが、米国ボストン美術館との間で最近、いろいろな契約条件が改善されたということで、従来あった問題が解決に向かっているとお伺いしまして。
金子 そうでしたか。
馬場 学芸部が解体されたことについても、再編して機能し始めているということでしたので。何とかお手伝いをと思ってお引き受けしたんです。
金子 なるほど。ところで館長さんはお医者様と伺いましたけど。
馬場 ええ。中学3年から俳句を始めまして、文芸的なことに興味を持ったんですけど、父が耳鼻咽喉科の医師でしたので、とりあえず医学の道に進んで。俳句は忙しいなかでも、手帳一つあれば続けられるものですから、学生時代はかなり一生懸命やりました。
金子 美術との出会いは、その後ですか。
馬場 ええ、医師になってからすぐですね。駒井哲郎さんという方の銅版画に出会ったんです。非常に小さな画面なんですが、そのなかにすごい世界が描かれているんですね。
金子 ほう。
馬場 それから駒井さんの銅版画を少しずつ入手したり、私が句集を出したときには、表紙の装丁をお願いして。そんなことから美術に深入りしていって…。ずっと名古屋市立大学医学部に勤務していたのですが、定年になったときに、「これからは自分が一番やりたいことをやろう」と(笑)。3年ほど名古屋市美術館に関わったりしたものですから、今回お声がかかったのではないかと思います。

金子 私はこちらの展覧会をよく拝見しているんですが、非常に質が高いんですね。そういう意味では、もう少し情報を発信するといいかもしれませんね。美術館の存在を知らない方もいますので。金山もいい街になりましたからね。
馬場 そうですね。職員の士気も高まっておりますので、金山を名古屋の顔として、クローズアップさせていきたいと考えているんですよ。
金子 今、5階オープンギャラリーで開催中の展覧会は、『アメリカ車のデザイン』展ですか。
馬場 はい。戦後すぐの、アメリカンドリームを駆け抜けた時代の車というのは、我々も憧れでしたのでね。展示室ではBGMにロックンロールを流して、当時の雰囲気を出しています。
金子 実はタクシーは、大正元年に東京で走ったのが最初なんですが、それはT型フォードだったんです。名古屋でも、わが社の前身が大正12年に走らせたのが最初なんですが、やはりT型フォードで。
馬場 そうですか。当時は円タク、1円ですね。今から考えると高いですね。(笑)
金子 もうひとつの展覧会は…。
馬場 4階ボストンギャラリーで開催している『アメリカ絵画 子どもの世界』展です。米国ボストン美術館の代表的な作品もありまして、日本で初公開されました。見応えありますよ。
金子 米国ボストン美術館へはいらっしゃいましたか。
馬場 先日、向こうの館長さんが来てくださいまして、7月にはこちらから行こうと思っています。日本美術も膨大なコレクションがありますからね。
金子 いつごろ日本の美術品がアメリカに渡ったのですか。
馬場 明治10年代に収集された作品が最も多いようです。岡倉天心の協力もあったのですが。でも向こうのほうが、厳重に保存されていて。江戸時代の浮世絵も、日本ではほとんど退色している紫が、向こうでは当時のまま残っています。今は江戸絵画に関心が集まっていますので、ぜひそういうものもお見せしたいですね。

金子 タクシーはよくご利用になられますか。
馬場 はい。名タクはずっと愛用させていただいています。いつも自宅まで配車していただくんですけど、時間さえ言えば10分前にキチッと来てくださって。私は時間ギリギリにしか出ないので、いつもお待たせして申し訳ないです。
金子 いえいえ。ご利用ありがとうございます。電話しても配車センターがなかなか出ないというお小言をいただくこともあるんですが、そんなご経験はないですか。
馬場 たまにありますかね。
金子 誠に申し訳ございません。今年の秋には、人工衛星によるGPS(全地球測位システム)を導入して、お客さまに一番近いタクシーのカーナビに、すぐ地図が出るようなシステムにしますので、数分でお伺いできるようになると思います。
馬場 それは便利ですね。それから今話題になっているのは、禁煙車ですか。私は耳鼻咽喉科が専門ですが、鼻やのどはタバコの害が最も現われやすいところでもあります。
金子 そうですね。名古屋のタクシー協会が5月1日から、全国に先駆けて全車禁煙にしましたが、これが今、他の都市にも及んでいるところです。これまでに、タクシーで印象に残るようなご経験はおありですか。
馬場 車内に忘れ物をしたことがあるんですね。紙袋に入れた本が鞄に入らなかったので、横に置いておいたら、すっかり忘れてしまって。家に着いてしばらくしたら、名タクからお電話があって、「お忘れ物ですよ」と。それまで自分では気がつかなかったので、「あっ、そういえば」。(笑)
金子 私どもではお降りのとき、「お忘れ物はございませんか」とお声掛けするようにしているんですけど、それでも多いですね。昔は雨傘がトップ。ここ数年は携帯電話ですね。

金子 今後の抱負などをお聞かせください。
馬場 以前は基本的に米国ボストン美術館の主導下に展覧会が企画されてきましたが、昨年企画展検討委員会を立ち上げてからは、こちらの見たいものを向こうに伝えるようになりました。もうひとつは、5階展示室が空いたときに独自の企画をと。地元作家の作品なども展示したいと考えています。また米国ボストン美術館には付属の美術学校がありますので、日本の若い作家との交流なども考えています。
金子 いろいろ変わっていくわけですね。
馬場 ええ。すぐにとはまいりませんが、ここ数年のうちには変わっていくことを感じていただけると思いますので、見守っていただきたいと。
金子 今後が楽しみですね。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。


[ばば・しゅんきち]
名古屋市生まれ。名古屋市立大学卒業後、同大病院長、日本耳鼻科学会会長などを務める。一方で俳句や美術に親しみ、句集5冊、芸術批評誌「REAR」などを発刊。名古屋演劇ペンクラブ会長。

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