この記事は2007年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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武田 敏一(南部第2営業基地)
 入社したのが今年の春。まだ半年にも満たない新人である。

 タクシー営業はお客さまを安全に快適に目的地までお運びする、つまるところこれだけだ。けれどもこの「これだけ」がいかに変化に富み、ハプニングに満ち満ちているか、これはハンドルを握ってみないとわからない。

 ハプニングは深夜に多い。酔いも手伝って乗ったとたん心地よさそうにぐっすり、というお客さまがいらっしゃる。なかには到着して、いくら声をかけても高いびきのままという豪快なお客さまもいる。駆け出しのころはどうしていいかわからず、目を醒ましてくれるまで辛抱強く待っていたものだ。

 そのときは先が思いやられると天を仰いだものだが、幸い「水滸伝」の世界と違って、現実はこの手の方は滅多にいないようだ。むしろ得がたい経験だったかもしれない。

 もちろんうれしいハプニングもある。こちらのほうが圧倒的に多い。

 車いすのご夫婦は、玄関先までわずか数メートルをお手伝いしただけなのに、こちらが恐縮するほど感謝された。

 なかでも忘れられない経験がある。

 そのお客さまは、かつて車内に忘れ物をしたそうだ。あきらめていたところ、自宅までわざわざ届けてくれ、そればかりか忘れ物は運転手の責任ですと詫びられたとのこと。

 「以来、名タクの大ファンです」とそのお客さまはうれしそうにおっしゃった。

 この一件で、駆け出しの身ながら、名タクへのお客さまの信頼感というものをつくづく思い知らされた。

 信頼はむろん一朝一夕で生まれるわけもない。当然ながら、幾多の先輩たちがお客さまとの車内コミュニケーションを通じて築き上げてきたものだ。

 新人教育では「当たり前のことを当たり前に継続していく」を、これでもかと教えこまれたが、この「当たり前」が信頼のかなめなのだろう。

 だから名タクブランドをもっと高めるために、微力ながらも協力していくこと。これが目下の目標となる。

 その達成のための近道を見つけた。自分自身が一番の名タクファンになってしまうのだ。

 ファン心情がお客さまに伝わるようになればしめたもの。で、その日を楽しみに、毎日わくわくしながらハンドルを握っているのである。



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