この記事は2007年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。
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聞き手(名鉄交通社長)
金子暁男 |
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小説「アサッテの人」で、第50回群像新人文学賞と第137回芥川賞をダブル受賞した作家・諏訪哲史さん(37)。意味不明の言葉を発する叔父さんを主人公にした、斬新な構成の作品です。名古屋に生まれ、今後も住み続けたいという根っからの名古屋人。名古屋鉄道に在籍したこともあり、あれやこれやの話に花が咲きました。 金子 芥川賞受賞、おめでとうございます。 諏訪 ありがとうございます。 金子 生活が随分変わったでしょうね。 諏訪 忙しくなりましたね。「この電話壊れてないか?」と思うくらい、電話がたまにしか鳴らなかったのに、賞をもらってから1週間くらい鳴りっ放しで。ノイローゼになりそうでした。 金子 作品に出てくる「ポンパ」という言葉は、亡くなられたお父様がおっしゃっていたそうですね。私は実は、お父様を存じ上げているんです。名古屋鉄道時代に。大柄で、豪放らいらくといった雰囲気の方で。 諏訪 そうですね。私と全然違うんです、体型も顔も。 金子 お父様は、よく「ポンパ」と? 諏訪 ええ。親子のスキンシップみたいなもので、二の腕の辺をこう(こぶしで叩く仕草)軽くパンチしながら、「ポンパ、ポンパ」と。 金子 ほーう。 諏訪 意味のない戯れですけどね。だから小説でも、どうせなら愛着のある言葉を使おうと思って。そうしたら、吊り広告から何から「ポンパ」「ポンパ」(笑)。この前も、「ヘタしたら流行語大賞いくぞ」と言われて。(笑) 金子 創作メモが出てきて、それも小説の話なんですね。 諏訪 ええ。ああいう形のまま出した方が、生々しくリアリティが出ると思ったんです。「構造的に複雑」とか、「新しい試み」とか言われるんですけど、そんなに実験的ではないと思うんです。 金子 学生のころから「小説家に」というお気持ちはあったんですか。諏訪 いえ、そこまではなかったんです。ただ本を読むのは子どものころから好きで。母親が図書館で毎週7冊ずつ借りてきましたから、それを全部読んでいました。あと、夜に母親が「遠野物語」を子守唄代わりに読んでくれました。 金子 お母様の影響も大きいんですね。 諏訪 すごくあります。怖い話を、鬼気迫る朗読で聞かされて。僕はもう怖くて怖くて、どれだけ悪夢を見たことか。 それで大学生まではただ読むだけだったんですが、卒論を書いたり、同人誌をやり始めたころから、書くことが面白くなって。「小説を書いてみよう」と思ったのは、名古屋鉄道に就職してからです。 金子 この作品を書くために、名古屋鉄道を辞められたそうですね。 諏訪 ええ。「やらなきゃ死ねない」というところまで考え詰めたので。それから一心不乱に2年間、書き続けて。時間をかけたので、思い入れの深い作品にはなりました。「中身が濃すぎて読みづらい」という方もいらっしゃいますが。 金子 しかし文学を志す人だったら、一度は取りたいと思う賞ですから。 諏訪 そうですね。(群像)新人賞と同じ作品でいただいているので、一冊しかないんですね。だから言ってみれば“僕はまだナゾの作家”で(笑)。「これからだ」というお話しは、どなたからもいただきます。 金子 受賞の言葉で、「荷馬車に揺られて」のルビに「タクシー」とありましたね。あの発想はさすが芥川賞作家だと。 諏訪 申し訳ないです。 金子 いえいえ。結びの言葉が、「(賞品の)懐中時計がいつか質屋に並ぶことのないよう、精進いたします」で。 諏訪 関係各位に怒られました。(笑) 金子 東京に行かれると、タクシーにお乗りになることもありますか。 諏訪 ええ。ここ最近、立て続けに乗ったんですけどね。運転手さんは千差万別で、いろんな経歴の方がいらっしゃるんですね。 金子 ええ、ありとあらゆる職業の人が。お医者さんが面接に来たこともありますよ。 諏訪 へえ。僕も小説が売れなくなったら、面接に行きます(笑)。二種免許が必要なんですか。 金子 二種免許は入社後に取れます。取るまでの間、日給8000円も支給しています。 諏訪 そんなにもらえるんですか。作家をやっているよりいいかもしれない(笑)。でも僕が運転手だったら、気を遣うだろうと思いますね。一期一会を繰り返しているわけですから。その場その場、一回きりの出会いで。お客さんにしゃべっていいのか、黙っていたほうがいいのか、まずそこの判断からですよね。 金子 そうですね。 諏訪 エレベーターの中で、見知らぬ人と二人きりで、長い間乗っているような状況だと思うんですよ。それが突然、街角で作り出される。それにいちいち対処していくのは、ハンパじゃないと。かなり心理的にハイレベルな仕事だと思いますね。 金子 ありがとうございます。 金子 お書きになるのは、パソコンですか。 諏訪 ワープロです。もう絶滅の危機に瀕した機器。(笑) 金子 パソコンはお持ちなんですか。 諏訪 いえ。携帯電話も持ってないんです。だからメールもしないし、インターネットも見ないんです。 金子 いろいろお話を伺っていますと、小説の世界とご本人は、随分イメージが違いますね。(笑) 諏訪 よく言われます。群像新人賞の授賞式の挨拶で僕、「舟唄」を歌ったんですよ。NHKのど自慢みたいに、舞台に出てきてマイク握った瞬間に、「十八番、『舟唄』」と言って歌い出したら、見事に滑って、シーンと(笑)。で、芥川賞受賞式の挨拶で、「今日は借りを返します」と言ってから、細川たかしの「心のこり」を。「♪私バカよね〜」と熱唱しましたら、会場が大いに沸いて。(笑) 金子 よかったですね。 諏訪 でもこれまた怒られて。「史上初だ、真面目なヤツだと思っていたのに」と。(笑) 金子 旅行がお好きだそうですね。43カ国行かれたとか。 諏訪 ええ。お盆休みには大体どこかに行って。学生のときは3カ月間、ヨーロッパを回りました。往復の航空運賃を含めて30万円で行ったんですよ。ユーレイルパスを買うと、鉄道は乗り放題なんですね。で、ホテル代を浮かせるため夜行列車に乗るんです。9日間、乗り続けたこともあります。フランスパンをかじって、水飲んで。さすがに病気になりましたけどね。 金子 それも小説にいかせますね。 諏訪 そうですね。 金子 今後の作品を楽しみにしています。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。 [すわ・てつし] 1969年、名古屋市生まれ、西区在住。名古屋西高等学校、國學院大学文学部哲学科卒業。群像新人文学賞、芥川賞の同時受賞は、村上龍以来31年ぶり。 HOME>INTERVIEW私のタクシー体験TOP |
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