この記事は1999年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

私のタクシー体験

 

 

歌手・俳優

布施 明さん

聞き手

名鉄交通会長 村手光彦
 

ふせ・あきら

本名・布施晃。1947(昭和22)年12月18日生まれ、東京都出身。64年「NTVホイホイミュージックスクール」合格、翌年「君に涙とほほえみを」でデビュー。「積木の部屋」「シクラメンのかほり」で日本レコード大賞ほか受賞。最近は俳優としての活動も多く、今年6月には舞台「ファルスタッフ」に主演。「ドラマティックコンサート」のお問い合わせは、(株)ナゴヤ・ミュージカル・センター(рO52・762・7730)まで。


  マッケンローが街で手を上げて、

イエローキャブに乗り込むテレビ。粋でしたねー。 

  歌はもちろん舞台、ドラマで役者としても活躍中の布施明さん。今年7月には3年ぶりの新曲CD「心をあずけるまで」をリリース、また9月13日(月)には愛知芸術劇場で、「ドラマティックコンサート´99」を開きます。長いアメリカ生活の経験もあって、タクシー談はやっぱりおしゃれに・・・。

 

アメリカで受けた発声訓練が、役にたっています。

 村手 「シクラメンのかほり」が昭和50年ですか。その後、一時、アメリカに行かれたんですね。

 布施 そうです。(女優のオリビア・ハッセーと)結婚したこともあったし、その前から音楽で悩んでいたこともあって、少し休んでみようかなと。最初は1年くらいのつもりだったんですけど、8年になってしまって。(笑い)

 村手 向こうでは、ステージ活動はなさったんですか。

 布施 全くしません。そんな甘い世界ではないし、特に我々アジア人が出られるところは、限られているので。最初は、「芝居で日本人の役があったら」と思って、登録もしたんですけどね。日系人の俳優さんが、1万何千人といるんですよ。そうすると、僕みたいによく言葉が分からないのよりも、日系人を使ったほうがいいわけですよ。

 村手 なるほど。向こうではアクティング・スクールにも通われたんですって?

 布施 ええ。発声をちゃんとやろう、そのためには普通のしゃべる言葉をやったほうがいいだろうということで、お芝居のクラスに通ったんですけどね。

 村手 英語の発声を勉強して、日本語の役にたつわけですか。

 布施 それはすごくいい指摘ですね(笑い)。日本語のセリフの足しになることは、ひょっとしたらないかもしれない。ただ英語の発声は、歌うときの発声にものすごく似ているんですよ。だから歌うことには、すごくプラスになっています。

 村手 ほお。そうですか。

 布施 そいで僕は声が高くて、ずっとテノールだと思ってたんですね。ところが向こうで調べてもらったら、元々バリトンだったらしいんです。バリトンでありながら、テノールの音域で歌っていたんですよ。それを元に戻すトレーニングをしたんですね。それがあったから、今も歌っていられると思うんです。

名古屋のタクシーは変わりましたね。

 村手 極めようと思うと、キリがないですねー。

 布施 そうなんですよ。タクシーのサービスもそうだと思うんですけど、僕らも大きな意味でサービス業の一つだとすると、限度がないですよね。サービスというのは、目に見えないものを提供するわけだから。それが気持ちなのか、風なのか、音なのか・・・・。

 村手 TPOによって、全部違いますからね。私どもは、タクシーにお乗りいただいたときに自己紹介をするということを、20年やってきているんですけどね。まだ5%の乗務員が、実行できてないんです。これが当面、大きな課題なんですけどね。

 布施 自己紹介する人が、95%から100%になったときに、また新しい課題が出てきて、やっぱりキリがないかもしれないですね。でも名古屋のタクシーは、変わりましたよね。僕らがデビューした30年ほど前は、どちらかというと一番、乱暴な都市でしたよ。当時、よく言われたんです。「名古屋のタクシーは怖いからな」と(笑い)。今はひょっとしたら、一番サービスがいいかもしれない。

ロンドンのタクシーは、ものすごく運転がうまいんです。

 村手 海外でもよくタクシーをご利用になると思いますけど、何か印象はございませんか。

 布施 僕はイギリスに1年半いたんですけど、ロンドンのタクシーは運転がものすごくうまいんですよ。あんな大きなオースティンの車で、狭い道もサーッと入っていくんです。運転手さんは、厳しい試験があるらしいですね。だからある基準に満たないと、なれないと思うんです。

 村手 そうらしいですね。アメリカはどうですか。

 布施 ニューヨークはイエローキャブですね。例えばバスケットボールやテニスの試合があるとき、テレビ放送は、選手がタクシーに乗るところから始まるんですよ。

 村手 ほお?

 布施 例えばテニスの試合の日。ジョン・マッケンローが街でイエローキャブに乗り込んで、「テイク・ミー・トゥ・ザ・ガーデン(ガーデンまで行ってくれ)」と言うんですよ。ガーデンというのは、マジソン・スクエア・ガーデンのこと。で、ザーッと走り出す。ニューヨークにおけるトランスポーテーション(輸送)の一番の手段が、タクシーだということらしいんです。

 村手 それはタクシー会社のCMではないんですか?

 布施 全然違うんです。普通の番組のイントロなんですね。僕は日本でそれを見たんですけど、すごく粋でしたねー。

 村手 カッコいいですね。我々もそういうCMを作らなくちゃ。(笑い)

きわものでなく、王道を行くことが重要。

 村手 最近はどんなスケジュールで、活動なさっていらっしゃるんですか。

 布施 コンサートツアーが大体9、10、11月くらいにありまして、12月はホテルのディナーショーが多いですね。あとは、例えば来年は6、7月に舞台がありますので、4、5月は準備とけいこで埋まってしまいます。その間にテレビの仕事をやったり・・・・。

 村手 名古屋でも9月にコンサートをなさるそうですけど、どんな内容になるんですか。

 布施 今年は久しぶりにラテンミュージックを取り入れようと考えています。他には、「danny boy」や「ある恋の物語」、それに僕のオリジナル曲もたくさん歌います。最近歌ってなかったものも取り入れたので僕も楽しみです。あとは物語性ですね。僕のコンサートは、毎年色々な趣向を取り入れていますので、今年も期待して欲しいと思います。

 村手 これから歌っていきたい歌などは、ございますか。

 布施 僕は器用貧乏みたいなところがあって、カンツォーネもジャズもシャンソンも、何でも歌ってきましたので、ジャンルとしてはないんですけどね。まだまだ中途半端なので、ちゃんとした“歌うたい”になりたいとは思いますけど。

 村手 なるほど。ジャズもお歌いになるんですか。

 布施 ええ。好きです。今はブームですからね。タンゴもラテンもブームなんですけど、今はある一部分だけのブームなんですね。それは恐ろしいことだと思うんです。「だんご3兄弟」にしても、支持される層が薄いもんですから、ブームが短い。きわものは何でもダメですね。芸事でも、サービスも、政治もそうかもしれない。

 村手 今はきわものが多いですからね。

 布施 ええ。ですから重要なのは、王道をずっと行くことかなと。基本が一番ですね。

 村手 我々もそれを心掛けていきたいと思っています。今日はお忙しいスケジュールのなか、ありがとうございました。