この記事は2000年3月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

 

バックミラー

介助で知った接客の基本?

大堀 忠義(南部第1営業基地)

 介助タクシーをご存じかどうか。昨年から当社が始めた新サービスである。体の不自由なお客さまに気持ちよく利用していただく。そこで乗務員が乗降のお手伝いをというもの。

 その一員になった。母親が長年、車いすの世話になっているだけに、介助への関心が深かったこともある。こうしたサービスが、気軽に外出を楽しんでいただくきっかけになれば、との思いもあった。で、しかるべき講習を受け、車いすから座席への移動のコツ、体の支え方などを教わったのである。

 こうして介助タクシー乗務員としてハンドルを握ったのだが、少々面食らったことがある。たとえば後部ドアを手で開けながら車いすのお客さまにお手伝いを申し出る。すると(腕が不自由な方は別だが)ほとんどの場合はにこやかに辞退し、自分自身でするりと座席に乗り込まれるのだ。これは思いのほかだった。何が何でも介助をという、当方の気負いをやんわりとたしなめられた気分だった。

 そういえば、以前ならまず、付き添いの人が同情したものだが、最近は車いすの方が一人気軽にタクシーを呼び止める。みなさん活動的なのである。先日ご利用いただいた年配の男性は、繁華街へ遊びに出かけるところで、終始ご機嫌、話題も豊富で大いに盛り上がった。観劇が趣味で、毎月タクシーで御園座や中日劇場へ出かけるご婦人もいた。

 こうした経験から、やっと気がついた。考えれば当たり前なのだが、車いすの方が、何も特別なお客さまではないのである。介助というのは、ことさら構えることではない。話上手なお客さまの話題に思わず興味をそそられるように、ごく自然に振る舞えばいいだけなのだ。そう納得してからは、ドアの開け閉め一つにも余裕が生まれた。乗り移るときに難儀そうな場合だけ、自然に手を貸すことができるようになったのである。

 お客さまとの呼吸がぴったり合う。この接客の極意を、介助を通して学んだといってもいい。以来、自然流のハンドル業務を続けているが、残念なことが一つだけ。狭い道路で停車して乗降の手助けをしていると、後続車がクラクションを鳴らして急がすこともたびたびある。助け合いはお互いさまの社会だ。もう少しご配慮願えればありがたいのだが。