この記事は2000年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

私のタクシー体験  
俳優
左とん平さん

聞き手
名鉄交通社長 大島 弘

ひだり・とんぺい

本名・肥田木通弘。1937(昭和12)年5月30日生まれ、東京都出身。テレビ、映画、舞台などで幅広く活躍中。8月23日にはCD「人間って何だろう?」を発売した。

芝居もタクシーの運転手さんも、間が大事でしょうね。

 ちよっとトボけたキャラクターで人気の俳優・左とん平さん。名古屋での舞台も多く、今年7月には名鉄ホール公演「夫婦うどん」で中村玉緒さんと共演。来年4月には「浮き世長屋は春爛漫」で増田恵子さん(元ピンク・レディーのケイ)と共演する予定です。さすが名古屋のタクシー事情にも詳しく、名タクの自己紹介にお褒めをいただきました。

話し掛けられると、つい「おつりはチップに」と。

 大島 お仕事がら、タクシーにお乗りになることも、多いんじゃないですか。

  ええ。地方公演に来たときには朝晩、利用させていただいてます。僕ら、こういう稼業やっていると、顔を覚えられてますんでね。「今、どちらで公演ですか」と言われると、ついチップ出したくなっちゃうんですよね。「お釣りはいいです」って。何も言われないと、そのままもらってくるんですけどね。(笑い)

 大島 お気持ちはよく分かりますね。

  それで名タクさんは、乗ると必ず名前を言うでしょ。「名夕クの○○です、よろしくお願いします」って。あれは非常にいいですね。何か忘れ物をしたときに、「名タクの○○さんの車」って、一遍に分かりますもんね。名前を言うのは世界で日本だけ、それも名タクさんだけじゃないですか?他では聞いたことないなァ。

 大島 ありがとうございます。名前を言うというのは、まずそれで接遇の気持ちを、ということで20数年前に始めたことを、ずっと続けてまいりまして。今では98%くらいの乗務貫が言うようになりました。

  そうですか。この教育は、僕はすごいなと思いますね。

無愛想な違転手さんと、ケンカしたことも。

 大島 今までタクシーにお乗りになって、印象的なご経験はおありですか。

  昔はよく、質の悪い運転手さんを”雲助“とか言ってね。僕も一度、ケンカしたことあるんです。「あそこまでお願いします」と言っても、返事もしない。「運転手さん、何か機嫌悪いの?」「いや」「何でブスッとしてんの?」「近いから」と。

 大島 ほおお。

  「近いからといってそんなにブスッとしていると、商売として成り立たないんじゃないの?」と言ったら、「そんなこと、アンタに言われる筋合いない」って。(笑い)

 大島 私どもは、近いお客さまが、次のお客さまを連れてきてくださる、と教育しているんですけどね。

  本当、そうだと思いますよ。僕らの商売も、お客さまを喜ばせて、また次回来てもらう。タクシーも、「いい運転手さんだったから、また名タクに乗ろう」とかね。全く同じだと思いますよ。

 大島 おっしゃるとおりですね、

  でも運転手さんもこういう不景気な時代にね、昔ほど稼げなくて、大変でしょ?

 大島 そうですね。以前は夜の盛り場ですと、お客さまがタクシーを探すのが大変だったんですけどね。今は逆ですから。

  そうですよ。バブルの前なんか、銀座で12時過ぎると、1時間くらい待たなきゃ乗れなかった。あれは何だったんだろうと。

 大島 結局、お客さまが滅って、タクシーはあんまり減らないという。需要と供給の関係ですね。

  値段が高くなったということも、減った原因なんですか?

 大島 や、値上げはこのところずっとしていません。今はむしろ、値下げ競争になりかけているんですね。

  値下げすると、もっとお客さんが増えないと、利潤が上がらないでしょ。

 大島 そうなんです。ですからまず景気が回復して、お客さまが増えればいいんですけどね。

お互いに気持ちいい挨拶を。

 大島 私はいつも左さんのお芝居を拝見して、非常に感動するんです。一言でドッと(客席から)くるのが、すばらしいと。

  お芝居というのは、お客さまが笑いたいときに、フッと笑わせるというのが、難しいんですよね。早く言っちゃダメ、遅くてもダメ。それが40年もやってくると、お客さまとの呼吸というのが、身についてくるんでしょうね。

 大島 極意ですね。

  そうですね。全て間だと思いますね。タクシーの運転手さんも、間が大事だと思いますよ。話しかけるタイミングとかね。あんまりしゃべり過ぎというのも困るけど。こちらは考え事をしたいときもあるし。そのへんの見極め方が難しいでしょうね。

 大島 それが大きな課題だと思いますので、そういう勉強もこれからしていこうと。

  それにはやっぱり、僕のお芝居を見たほうがいいんじゃないですか。(笑い)

 大島 本当ですね。私どもは最近、小さな感動をお土産にして、降りていただきたいという努力をしているわいうわけですけどね。お客さまから「よかった」というお手紙やお電話をいただいて、逆にこちらが感動をいただくという、思いもよらない成果がありまして。無欲でお客さまを太切にすることが必要だと、再認識したんです。

  やっぱり乗る客も、乗せる運転手さんも、気持ち良い挨拶をするっていうのが、必要でしょうね。お互いが「運転手さん、ご苦労さん」「ご乗車ありがとうございます」というね。だから僕は乗るときには必ず、「お願いします」と言って、乗るんです。

20数年ぶりにCDを発売しました。

 大島 ゴルフがお好きだそうですね。

  そうなんです。自分で言うのも何ですが、うまいんですよ(笑い)。ハンディ6ですか。

 大島 ほお。雲の上ですね。(笑い)

  僕はね、60過ぎてからタマが飛ぶようになったんですよ。20ヤードくらい違う。だから行きたくてしょうがないんですけどね。ちょっとこのところ、スケジュールが詰まってしまって。

 大島 8月にはCDも出されたとか。

  そうなんですよ。僕は27年前、「ヘイ・ユウ・ブルース」という曲を出して結構、はやったんですよ。それ以来。今度は「人間って何だろう?」というタイトルのね、原点に戻るというテーマなんですけど。今、未成年者の犯罪が多くなったんで、もう一回見つめなおして、という曲なんですよ。

 大島 舞台も今回は中村玉緒さんとの共演で、息がピッタリでしたね。

  20何年ぶりの共演でしたけどね。玉緒さんは昔と全然変わってないですね。笑っちゃうくらいそそっかしくって、愛矯があってね。大好きな女擾さんですね。

 大島 ほお。

  セリフを間違えるとね、僕らはごまかしてスーッとやっちゃうでしょ。あの人は言い直すんですよ。この前なんか、ベロ出すんです。「いけね、間遵えちゃった」って顔して。(笑い)

 大島 それが人気の秘密かもしれませんね。今日はお忙しいところ、楽しいお話をありがとうございました。