この記事は2001年3月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

バックミラー
カエルの折り紙に思いを包んで

あたらし學(南部第1営業基地)

 子ども時分からカエルが好きでたまらない。生まれ育った鳥取の渓流はカジカガエルの宝庫だった。巡ってきた夏を祝うように、独特の透き通ったソプラノを響かせる。鳴き声を真似ているうち、薄茶の華奢な姿にもすっかり魅了されてしまったわけだ。

 長年勤めてきた知的障がい者施設を辞め、ハンドルを握って6年になるが、お客さまとの会話のきっかけも、カエルの鳴き真似だった。アマガエルをケロケロとやる。続いてウシガエル、トノサマガエル。そしてとっておきのカジカガエル。

 けれどこれ、思いのほか疲れるのである。そうそうリクエストに応じてばかりいられない。考えた末、折り紙プレゼントに思い至った。これも子どもの頃からの得意技である。

 本当は千代紙を折って畳んで返し、仕上げに空気で膨らませる。堂々たるカエルが出来上がるが、お客さまにお渡しするには大き過ぎて邪魔になる。そこでチラシを4.5cm角に切り取り、体長1cmのカエルをこしらえた。

 チラシのどこを使っても柄が違うから、二つと同じカエルができない。そこがまあ値打ちかなと思った。

 ところが予想外に好評だったのだ。縁起物だと、大切に財布に収める方もいる。元気がカエル、若ガエルと大喜びのお年寄りもいる。外国のお客さまは「オー、オリガミ」と叫んで興味津々のてい。ぜひ製作風景をと請われるので、キリンやゾウも披露し「マジシャン」の称号までいただいた。幼稚園の先生にぜひと頼まれ、子どもたちの折り紙指導も引き受けたりする。

 この豆ガエルをきっかけに会話が弾むのはいうまでもない。親子のお客さまには、自分で撮影したカエルの写真を見せて、魅力的な生態を伝えたりもする。

 実は愛知万博会場になる「海上(かいしょ)の森」はオオタカばかりが珍しいのではない。天然記念物のモリアオガエルの生息地でもある。非番の日、現地へ出掛けてその可憐な姿を見つめていると、自然のすごさが、頭より先に心の中に突き刺さってくる。

 その思いの幾分かを折り紙に包んでいるつもりだ。これまで手渡したカエルは2万6000匹を超えた。お客さまたちが紙ではなく、本物を見たくなったら、これはうれしい。童心にカエル、自然にカエルこと。それでこそ毎日の暮らしも華やぐと思っているから。