この記事は2001年6月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

菱形つれづれ

「ハヴァ ナイス トリップ」

名鉄交通取締役相談役
村手光彦

 コンピュータで制御する新しい交通機関を調査するため、1967年、私がアメリカに出張したときのことです。1カ月近くの日程を終え、明日は帰国という日の朝でした。

 ニューヨークのウェストサイドの二流ホテルのビュッフェで、顔なじみになったウェイトレスに「明日は日本に帰るんだ」と話し掛けると、彼女は「ハヴァ ナイス トリップ(さようなら、よい旅路を)」と言ったのです。

 ごく普通の別れの会話に過ぎませんが、そのときは初めて聞いた表現でしたし、いささかホームシックな気分と、旅路の不安と、またいつの日にこの地を訪れることができるか、という感傷に浸っていた私にとって、明るさと元気を与えてくれた瞬間でした。以来、いつまでも心に残る言葉になりました。

 私ども名タクではお客さまにご乗車いただいた際、お礼の言葉とともに「私は名タクの**と申します、よろしく」と自己紹介をして、お客さまとのコミュニケーションのきっかけを図り、行く先や経路の確認、またお降りのときにはお忘れ物の確認を励行するようにしています。最近はこれに加えてもう一言、何かお客さまの心に明るさと元気が残るような短い会話を添えるよう、全社員が努力しています。

 例えば朝なら「おはようございます、今日は暑いですね」。会社や駅までお送りしたときには「お気をつけて行ってらっしゃい」。深夜のご帰宅なら「お疲れさまでした、おやすみなさい」などでしょうか。こうした会話はマニュアルに定めて実施しても、お客さまの心に残ることは少ないでしょう。やはりその場の雰囲気を感じ取って、自然に口に出ることが大切で、このためには日ごろサーバント意識を徹底するとが重要だと思っています。