この記事は2002年3月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

バックミラー
ちょっとない、忘れ物の届け方。

長江一男(西部営業基地)

 お人好しだと、よく言われる。頼まれると断れないタチなのである。困っている人を見ると、急用があってもつい声をかけたくなる。効率最優先の時世になんとも厄介だが、性分だから仕方がない。

 夜遅く、名古屋空港でポツンと立っている男性がいた。最終便の時刻はとっくに過ぎている。若いブラジル人で、出迎えの人と行き違いになったらしい。所持金は行く先の豊田市までの電車賃がせいぜいだった。知らない国でこれでは、心細いに決まっている。西春駅まで送って、乗るべき電車を教えてあげた。救われたような笑顔が返ってきた。

 万事この調子である。売上げには結びつかないこともあるが、笑顔は何物にも代えがたいと、まあ自分なりに納得させている。

 極めつけがある。

 昨秋、都心のホテルへお客さまを迎えに行ったのである。年配のフランスのご婦人で、山のような荷物と一緒だった。ホテルマンに手伝ってもらいトランクに収め、名古屋駅へ向かった。

 大阪から上海へ行くという、そのご婦人の荷物をホームまで運び上げてから、改めて車のトランクをのぞくと、なんとアタッシュケースが一個残っているではないか。

 急ぎホテルへ戻り連絡をとると、関西空港まで届けてほしいという。で、飛行機にギリギリ間に合うからと、当社営業基地への報告もそこそこに、ケース片手にすっ飛んで行ったのである。タクシーではなく新幹線に乗って。

 気が気ではなかったから、汗びっしょりで空港カウンターへ走った。そのあとの光景は思い出しても照れくさくて赤面する。両手を広げて走り寄ったご婦人に、思い切り抱きしめられたのである。外国映画に出演した気分になった。

 ご婦人はフランスの有名なファッションデザイナーだそうだ。届けた荷物は仕事に欠かせない書類だという。大喜びの表情で、空港駅販売店でネクタイを買い求め、プレゼントしてくれた。ご婦人の名が刺しゅうされていた。

 荷物の数はお客さまに確認していただいたとはいえ、忘れ物の責任はこちらにもある。そこで大阪まで届けたわけだが、こうしたサービスはフランスでは考えられないらしい。

 そういうものかと思って社内で話したら、日本でだって例外だとあきれられた。ハンドルを握って28年。お人好しに筋金が入ってきたのかもしれない。