この記事は2002年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

私のタクシー体験

女優
野川 由美子さん

聞き手
名鉄交通社長 村瀬 薫久

のがわ・ゆみこ

1944年8月30日生まれ、京都出身。高校生のとき「ミス着物コンテスト」で準ミスに選ばれ、64年日活映画「肉体の門」で女優デビュー。以後、映画やテレビドラマ、舞台で活躍。名古屋での舞台は名鉄ホール「女の一生」「おんな力こぶ」などの他、「赤ひげ」(御園座)「夜叉ヶ池」(同)など多数。夫は脚本家・演出家の逢坂勉さん。

運転手さんがヤバそうなときは、どこかのアネゴのふりをします(笑)。

 今年で女優生活40年を迎え、ますますパワフルな野川由美子さん。7月の名鉄ホール座長公演「ちょっといい女」でも、バイタリティあふれる舞台を楽しませてくれました。名古屋公演ではもっぱら名タクをご愛用いただくそうで、お褒めの言葉もたっぷり‥。

セリフは気持ちよく流れちゃうと、心にとまりません。

 村瀬 7月の舞台を拝見して、非常に感心しました。あのパワー。男でいうなら馬力ですよね。女性の場合は‥。

 野川 いや、女性も馬力ですよ(笑)。私は今年でちょうど(女優生活)40年なんです。で、今回は40周年の記念公演と思って、毎日とっても楽しくやらせていただいたんですよ。

 村瀬 そうですか。ついつい引き込まれて、時間が短く感じました。

 野川 うれしいお言葉です。

 村瀬 観客を引っ張る吸引力というのが、舞台の一番の魅力なんでしょうね。

 野川 (ご主人の)逢坂の書く本と言うのは、ともすれば難しいと、よく言われるんですけどね。セリフというのは気持ちよく流れちゃうと、お客さまの心にとまらないんです。「あれ、何でこんな難しい言い方するの?」というときのほうが、引っかかるんですね。

 村瀬 なるほど。

 野川 だから役者は意味をよく解釈しないと、言えないセリフがあるんですね。その代わり最後まで、少しも気を抜けないんですよ。だから私は楽屋に入る9時から、6時25分の終演まで、怒涛どとうの9時間半と言っています(笑)。

 村瀬 本当ですねー。美容体操やらなくても、痩せちゃうんじゃないですか。

 野川 これがですね、汗はものすごいんですよ。でもお医者様に言わせると、何も考えないで、頭を空っぽにして出す汗じゃないと、痩せないんですって。

 村瀬 ほお。苦労して流す汗はダメですか(笑)。

 野川 そうなんですよ。

 村瀬 野川さんが演じられた雲輪瑞法さんのお寺は、知多四国44番目の大宝寺ですね。私どももタクシーで巡拝するということをやっておりまして、地元では結構、親しみを持っていただいていると思うんです。

 野川 あ、そうなんですか。ありがたいことですね。

 村瀬 瑞法さんとは、相当長いお付き合いなんですね。

 野川 初演からずっとですから、もう30年くらいですか。小田原にあるうちの自宅まで、車を運転していらっしゃるんですよ。知多から一人で、「来たよ!」って。そのくらいお元気なんですよ。

名タクさんは、まず挨拶が気持ちいいですね。

 村瀬 こういう地方公演のときは、タクシーをご利用なさる機会も多いでしょうね。

 野川 ホテルと劇場の往復は、必ずタクシーですね。で、これはお世辞でも何でもないですけど、名古屋ではほとんど名タクさんです。「お早うございます」から始まってね、「こんばんは」「ありがとうございます」と、気持ちいいんですよ。で、何が感心するってね、「メーターを倒させていただきます」とおっしゃる。「あ、恐れ入ります」と言うんですけど。

 村瀬 やっぱり気分がいいですよね。

 野川 そうなんですよ。この前も目的地のすぐ手前で渋滞しちゃったら、「ここでメーター切ります」とおっしゃる。いつも感じるんですよ。「すごいな」と。

 村瀬 運転手は、野川さんと分かって‥。

 野川 違います! 私、普段は一切化粧しないんです。これはね、私のポリシーなんですよ。化粧して、衣装着て、段々扮装していって、その役に入っていくんですね。だから普段はありのままでいたいと。ですからほとんど気づかれませんよ。

 村瀬 そうですか。

 野川 よそのタクシーはね、グチられるんですよ。お客さんが少ないとかね(笑)。それ聞きますと、こっちも落ち込んでいきますしね。

高速道路で同じ景色を2回見ました。

 村瀬 タクシーで何か面白い経験はございませんか。

 野川 東京で若いころ乗ったとき、高速道路で、同じ景色を2回見たことがありますね。「あれ、さっき見たぞ」と思いながら(笑い)。環状線だから、いくらでも回れるんですね。

 村瀬 それは災難でしたね。

 野川 そいで私は運転手さんがブスッとして、これはアブないと思うときは、わざと関西弁を出すんです。ひとり言を言うんですね。「あー、しんどっ」とか。「その筋のアネゴかな」と思われるように (笑)。

 村瀬 演技はお手の物ですからね。よく運転手とお話しになるんですか。

 野川 しゃべりやすいんでしょうかね。なぜか話しかけられるんですよね。で、私もしゃべりますから。一公演分くらい話したこともありますよ。運転手さんの家庭環境をね、うちの娘がどうで、女房がどうでって、全部聞いて。最後、「奥さんによろしく」って、降りました(笑)。

 村瀬 それもお人柄なんでしょうねー。応対するのが、煩わしくはなりませんか。

 野川 いいえ。運転手さんは、本当にいろんなことを知ってらっしゃるし‥。私は車の免許を持ってないので、運転していただくのはプロの方と決めてるんですよ。

エステは行ったことがありません。

 村瀬 しかし全然、お変わりになりませんね。女性にこういうことを伺うのも何ですけど、美しさを保つために何かしてらっしゃるんですか。

 野川 私はね、女優になってから、一度もエステに行ったことがないんですよ。で、普段は化粧しませんし、海外に遊びに行くときも、化粧水1本持って行くだけなんですよ。

 村瀬 ほお。珍しいんでしょ、エステに行ったことのない女優さんというのは。今は普通の男でも行く時代ですからね。

 野川 シワのない家系かもしれないですね。でもこれだけは言いたい。若い女性は日焼け止めだけはしたほうがいい。それは後悔してます。あとは睡眠をきっちりとることですね。体力維持のためには。

 村瀬 今後、舞台やテレビにかける思いなどはおありですか。

 野川 機会があれば、できる限り舞台をやりたいですね。その代わり引き際はきれいにしようと思っています。 一番うれしいのは「あなたの芝居を見て、元気が出ました」と言われることなんですね。これが「野川由美子もくたびれたか」と思われたら、辞めようと。

 村瀬 いえいえ、ますますのご活躍を期待しています。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。


6月1日付けで村瀬薫久が社長に就任いたしました。今後ともよろしくお願いします。