この記事は2002年12月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。
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「年間800万人近いお参りがあります」と小串宮司さん |
聞き手(名鉄交通社長) 村瀬薫久 |
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新年の初詣をはじめ、人生の折々に「熱田さん」として親しんでいる熱田神宮。その「神さま」にお仕えする神職のうち、長を務められるのが、小串和夫宮司です。終始穏やかな口調で、プライベートなタクシー体験まで語っていただきました。 村瀬 僕の子供のころの記憶をたどりますと、秋になるとお祭りがあって、出店が並んで、そこにお宮さんがある。お宮さんとお祭りというのは、常に一体感があるんです。日本では全国どこでもそうなんでしょうね。 小串 そうですね。熱田まつりも、本来は感謝のお祭りですから 、宮司がまず神事を奉仕しますね。それから神輿(みこし)が出て 、山車が練り歩く。これは神賑わいの行事なんです。神さまへのお祭りと、それをお祝いする氏子さんの行事とが、一体になって「お祭り」になっているんですね。 村瀬 そうでしょうね。ただ大人になりますと、お宮さんはもっぱら願い事を聞いていただく存在で。「何とかよろしく」と、都合のいい頼みをするわけですよ。神さまも大変でしょうね。大勢の人間があれも頼む、これも頼むと(笑)。 小串 熱田神宮では年間800万人近いお参りがありますから、それだけの願いをお聞きになるというと、お困りかも分かりませんね(笑)。 村瀬 800万人と申されますと、まずお正月ですね。それから我々がよく存じあげている初えびす(5日)と…。 小串 熱田では年間70余りの祭典や神事があるんですね。そのなかで、お正月は3日間で大体200〜250万人くらい。初えびすを入れますと5日間で300万人くらいのお参りがあります。それから豊年祭(花のとう・5月8日)や、熱田まつり(6月5日)などにも、大勢いらっしゃいますね。 村瀬 そうですか。 小串 行事の他にも、お宮参りや七五三、結婚式といった人生の大きな節目。それから昨年、交通安全の祈祷殿ができましてからは、車のお祓いにも大勢いらっしゃいます。 村瀬 なるほど。僕は実は熱田さんが余りに身近すぎて、詳しくは知らないんですよ。知っていることと言えば、三種の神器である草薙剣(くさなぎのつるぎ)がご神体である。それから信長公が奉納したという土塀、弘法大師がお手植えしたという大楠がある。「ならずの梅」というのは、最近まで知らなかったんです。 小串 そうですか。紅白の花は咲くけれど、実がならないんですね。 村瀬 宮司さんは、タクシーにお乗りになることはおありですか。 小串 ええ。公用は公用車で動きますけれども、プライベートではタクシーが多いです。運転免許も車も持っていますけど、「万一の事故を考えて乗るな」と言われますから。 村瀬 私どもの車をご利用いただくこともございますか。 小串 名古屋では名タクですね。「名タクの○○です」と、挨拶もしっかりしてらっしゃるし。あれ、気持ちいいですね。 村瀬 ありがとうございます。何か不都合をお感じになることなどは、ございませんか。 小串 僕はタバコを吸わないんですけど、車内が臭うことがあるんです。運転手さんは、今は禁煙になっているんですね。お客さんはどうなんですか。 村瀬 私どもとしては「お吸いください」と。で、降りられてから窓を開けて、空気を入れ換えるように指導していますけど。 小串 お客さんもご遠慮いただくとありがたいんですけどね。サービス業ですからそうもいかないでしょうけど。 村瀬 最近はいろんな場所が禁煙になりましたので、タクシーで一服するのが、ひとつの開放感という方もいらっしゃるんですね。そこが難しいところで…。 小串 ストレス解消にもなりますしね。 村瀬 自分が吸わない営業係(運転手)は、臭いに敏感だからいいんですよ。吸う営業係には灰皿を持たせて「外で吸いなさい」と言っているんですが、お客さまの残した臭いに気づかないことがあるんですね。それをどう教育していくかが、課題だと思います。 村瀬 タクシーで何か印象に残るご経験は、ございませんか。 小串 プライベートでは、着物で乗ることはあまりないのでね。運転手さんは僕が宮司と知らずに、熱田さんの由緒などをいろいろお話してくださる方もいて。「ほお、なるほど」と聞いています(笑)。 村瀬 間違ったことを言う営業係はいませんか。 小串 そういう場合はね、「こうじゃないの?」と(笑)。 村瀬 名古屋の観光というと、まず熱田さんですからね。わが社でも名所案内の教育をしているんですけど。今回この欄で営業係は、宮司さんのお顔も覚えると思いますので。 小串 これからは顔を隠して乗らないと(笑)。行き先を間違えられたこともありますよ。伊勢で遅くまで会合があって、タクシーに乗ったんです。で、「桑名まで」と言って、うとうとしていたら、どうも景色が違う。「どこ行くの?」「熊野でしょ」。大あわてしましたね。 村瀬 私どもでは行き先確認をするようには、教育しているんですけどね。 小串 名タクさんじゃなかったんですよ。名タクにすればよかった(笑)。 村瀬 僕は宮司さんとか祢宜(ねぎ)さんというのが、神社における階級の名称だとは知りませんでした。 小串 そうですか。熱田には神職が50人ほどおりまして、宮司、権宮司、祢宜、権祢宜などの職があります。 村瀬 なるほど。宮司さんの日常生活というのは、我々と全然違うんでしょうね。 小串 いや、さほど違わないですよ。霞(かすみ)でも食っているんじゃないかと思われることがありますけど(笑)。コーヒーもお神酒(おみき)もいただきますし。もちろん神事とかお祭りの前などには、厳格な精進をいたしますが。 村瀬 お正月の間は、体力勝負でしょうね。 小串 おっしゃるとおりです。大晦日から正月の5日までは、ほとんど休みなしで奉仕いたしますので。 村瀬 お正月は、いつごろのお参りが一番多いですか。 小串 最近は分散してきました。早朝から夜遅くまで、参拝者が途切れないんです。 村瀬 夜は何時まで参拝できるんですか。 小串 24時間、いつでもお参りいただけます。参拝者それぞれに、落ち着かれる時間帯があると思いますので。 村瀬 今日はご多忙の中、貴重なお話をありがとうございました。 おぐし・かずお 昭和18年9月26日生まれ。皇學館大学文学部国史学科卒業後、乃木神社、多度大社で宮司を務めた後、平成6年5月から熱田神宮権宮司、10年から宮司職に。愛知県神社庁庁長、神宮本庁常務理事ほか、要職多数。
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