この記事は2003年3月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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「タクシーの中では会話を楽しみます」と鈴木孝政さん
聞き手(名鉄交通社長)
村瀬薫久

 胸のすくような剛速球で、中日ファンの記憶に鮮やかな鈴木孝政さん。昭和48年の入団以来、あるときはリリーフ、あるときは先発として、17年間に数々の記録を残されました。現在は野球解説者としてもおなじみです。気さくなお人柄から、タクシーも楽しんで乗っておられるようでした。


村瀬 僕が鈴木さんの現役時代で一番印象に残っているのは、オールスター戦のときのスピード競争ですよ。
鈴木 ああ、山口高志さん(元阪急)と、セパ両リーグのスピード競演とか言われて。僕が21歳のときですね。
村瀬 勝ったでしょ、鈴木さんが。
鈴木 いえ、山口さんの方が速かったです。僕が選手時代、自分の目で確認して、一番速かったのが彼ですね。
村瀬 僕は鈴木さんの方が、速かった気がしますけど。
鈴木 中日ファンの方は、そう思ってらっしゃるんですけど(笑)。
村瀬 でもあんなにスピードが騒がれ出したのは、鈴木さんからじゃないですか。
鈴木 スピードガンが入ってきましたからね。最初に手に入れたのが広島さん。試合で僕が投げて、測ったんじゃないですか。次の日の新聞に、僕が155キロを計測したと出てたんです。結構うれしかったですね。
村瀬 そりゃそうでしょうね。
鈴木 そのとき米国のノーマン・ライアンが100マイル。160キロですね。「よし、あと5キロだ」なんて。随分、印象にありますね。
村瀬 ストッパーの先駆者なんですけど、先発をされた時期もおありで。先発のほうが楽じゃないですか。
鈴木 それは違いますよ。先発の辛さというのは、投げる日が決まっていることですね。前の晩なんか震えてますよ。打たれたらどうしようとか。僕はバース(元阪神)の顔が浮かんで、どれだけ寝られなかったか。
村瀬 ほお。
鈴木 一番いいバッターですからね、僕の中では。ストライクを投げたら、彼にだけは打たれると思いましたね。デッドボールも、自分から当てたのは彼に1回だけ。「少し休んでもらおう」と(笑)。右ひざ狙ったら、当たりました。一発で。いいコントロールしてましたね。でも「OK!」と言って、返って元気になりましたよ(笑)。


村瀬 選手時代にたくさんの記録を残されて、今も社会的地位を維持していらっしゃる。そういう意味では、トップクラスじゃないかと。そのくらい厳しい世界じゃないですか。
鈴木 厳しいです。選手時代のある日、自分が入団したときにいた約70人の選手が全部、いなくなったんですよ。そのときは家に帰って乾杯しました。サバイバルゲームに勝ったと思って。
村瀬 利用価値があるから残れるわけですからね。
鈴木 そうです。トレードにも出されなかったし。いっぱいありましたけどね、話は。ヤクルトの武上さんが監督のとき、神宮球場に行ったら呼ばれたんですよ。「お前はそんなに大事な選手か。うちがいい条件出してもくれない」と言われて。
村瀬 男冥利に尽きますね、それは。
鈴木 そうです。敵の監督だけど、「いい人だな」と(笑)。
村瀬 実は僕の女房も、鈴木さんのファンだったんですよ。モテたでしょうね、女性に。
鈴木 いやいや。僕は23で結婚しましたからね。高校のときからの付き合いですから、野球選手にならなくても一緒になってたと思いますけどね。
村瀬 幸せな結婚だったんですね。内助の功があったと。
鈴木 美化してやらないとね(笑)。でも野球選手の奥さんは大変ですよ。特にピッチャーは。成績が上がらないと女房にツケが回ることもあるし、わがままだし。寝るのと食べるのが仕事ですから。


村瀬 お仕事柄、あちこちでタクシーにお乗りになる機会も多いと思いますけど、何か印象深いご経験はおありですか。
鈴木 現役時代、アメリカに勉強に行ったんですね。で、ニューヨークでイエローキャブに乗って、「ケネディ・エアポート(空港)」と言ったら、通じないんですよ。その運転手、黒人だったんだけど、英語が分からないんです。道路標識も読めない。だから僕が標識を見ながら「こっち」「あっち」って。大変でしたね。
村瀬 そんな運転手もいるんですねー、向うには。
鈴木 うん。それと金沢でね。行き先は近くのホテルだったんだけど、真夏だし、すぐ中継があるしで、急いでたんですよ。それで行き先言ったら「バカにしとんのか、コラ」と降ろされた(笑)。荷物持って、歩いていきましたよ。みじめだったな、あれは。
村瀬 わが社では、近距離のお客さまを大切にするよう、徹底的に教育しているつもりですけどね。
鈴木 そうですか。気持ちは分かりますけどね。でも近距離もあれば遠いこともある。それが仕事ですからね。


村瀬 名古屋でお乗りになると、運転手は鈴木さんと分かるんじゃないですか。
鈴木 声で分かるんでしょうね。野球の好きな人は、ラジオで解説を聞いているから。飲んだ帰りに乗ると、「鈴木さん、今日は遅いですね」とかね(笑)。
村瀬 よく運転手とお話しになりますか。
鈴木 話す方です。どっちかというと、喜ばれるお客(笑)。僕はあちこち行ってるし、いろんな選手と付き合ってるから、言葉で大体、出身地が分かるんですよ。だから運転手さんと話すのは、まずそれ。「当ててみましょうか」って。
村瀬 ほお。
鈴木 出身地や名前から取っ掛かりを持つと、いろいろ話してくれますもん。そうすると目的地まで、気持ちよくすぐ着きます。
村瀬 お互いが、気持よく過ごせるんでしょうね。
鈴木 そうです。逆に地方に行くと、運転手さんの言葉で、「ここに来たな」という感じがしますね。で、その土地の取材をするのが大好き。名物もおいしい店の情報も、全部聞きます。運転手さんに聞くのが一番だもん。それをテレビやラジオでしゃべるんです。
村瀬 なるほど。では最後に一言、今年のドラゴンズはいかがですか。
鈴木 まず投手陣はいいですね。カギになるのは福留選手と野口投手。この2人が活躍すると、優勝戦線に加わるだろうと。そうなると中日、巨人、ヤクルト、阪神。この4球団の争いになるんじゃないですか。
村瀬 解説にも熱が入りますね。楽しみにしています。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。


すずきたかまさ
 1954(昭和29)年7月3日生まれ。千葉県出身。昭和48年、中日にドラフト1位で入団。セーブ王(50、51、52年)、最優秀防御率(51年)、カムバック賞(59年)、オールスター7回出場。現在はラジオ・テレビの野球中継の解説の他、東海テレビ「ドラゴンズHOTスタジオ」にも出演。

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