この記事は2005年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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椋本 敏夫(北部営業基地)
 この仕事に就いて10年になる。それまで勤め上げた仕事を辞しての再就職だから、第2の人生というわけだ。

 第1のほうは警察官だった。30年間、さまざまな任務を経験したが、なかでも交通機動隊時代の思い出が深い。

 交通機動隊では白バイに10年乗った。任務はもちろん交通違反者の検挙である。道路をたった一人で巡回し、無謀ドライバーを発見すれば、まさに人馬一体の運転技術で追跡し、検挙する。

 突然サイレンを鳴らし、赤い回転灯とともに現れる。月光仮面みたいな神出鬼没ぶりには、違反者ならずともドキッとするに違いない。おかげで白バイを見ると、皆さん条件反射のように速度を控えるようになった。その意味でも、白バイは安全な交通環境づくりに貢献している。

 けれどもこの任務、大変な難行苦行なのである。

 まず運転技術。車の洪水の中をひらりひらりと泳ぎながら違反者を追跡する。それには厳しい訓練が要る。ときにはサーキットに出かけ、レーサーまがいの特訓もやる。

 運転姿勢もつらい。一般バイクの模範となるべく、どんなときでも背筋を伸ばし、あわてず騒がず、どっしりと構えなくてはいけない。炎天下、重装備の制服に身を固め、涼しい顔で排ガスの中を巡回する精神力も要る。 それにオートバイは危ない。一度、高速道路で追尾中に、大型トラックに巻き込まれて大怪我をした。それでも辞めなかったのは、交通安全に貢献するというプライドがあったからだ。

 さて、警察官のあとは縁あってタクシードライバーとなった。

 以前と比べて大きく違うのは、コミュニケーションのあり方に尽きる。

 厳しい表情だったあの頃と違って、今度は笑顔での応対だ。当初は照れくさかった。が、慣れて肩の力が抜けてくると、笑顔と言葉がどんどん自然に溶け込んでいった。

 そしていつのまにか、お客さまとの出会いを楽しみにしていることに気が付いた。さまざまな人に触れ、自分の世界が広がるのがうれしいのである。

 座席を振り向くと白バイ仲間がお客さまだったりすることもある。ついつい当時の話題で盛り上がり、最寄の駅までのつもりが、気が付いたら遠方の自宅まで送り届けていたりした。

 筋書きのない出会いが楽しいのである。だからこの第二の人生、大いに気に入っている。



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