この記事は2005年9月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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聞き手(名鉄交通社長)
金子暁男

 女性だけで歌舞伎を演じる、「名古屋むすめ歌舞伎」一座の代表・市川櫻香さん。最近はNPOとして活動の幅を広げ、舞台に立つ傍ら、子どもたちにも歌舞伎に触れる場を提供していらっしゃいます。精力的な行動を支えているのは、「いい移動空間」。名タクにもおほめの言葉をいただきました。


金子 今は何人くらいでやっていらっしゃるんですか。
市川 女性なので、子育て中の方とかいらっしゃって…14〜15人ですか。2年ほど前、私どもはNPOになったんですね。それで歌舞伎という伝統芸能をどうやって皆さまに広く親しんでいただくかということで今、手探りしているんです。歌舞伎というと、敷居が高いという方が随分いらっしゃいまして。それを払拭していきたいと。
金子 なるほど。
市川 今年7月には名古屋市と一緒に、名古屋女流歌舞伎公演を主催させていただいたんです。NPOで初めての制作でしたので、力が入りました。
金子 そうですか。最近は子どもたちに、歌舞伎を教えるということもなさっているそうですね。
市川 はい。2年ほど前から、「アイ・ラブ・カブキ」という教室を、子どもさんと中高生と社会人の三部制でやっています。お作法や三味線、歌舞伎の所作をおけいこして。足が痛くても正座をしまして「お願いします」とか「お先に失礼します」とか、そういうちょっとした言葉を言いながら…。
金子 ほう。いいですね。
市川 子どものうちに、心持ちを素直な言葉で伝える方法を教えてあげることが、もしかしてお三味線が弾けるかどうかより大事なんじゃないかと思います。

金子 私が子どものころは、先生というのは非常に怖い存在だったんです。伝統芸能のお師匠さんと弟子というのは、もっと厳しいでしょう。そういうのがだんだん薄れていく時代ですからね。
市川 特に伝統芸能はけじめをすごく大事にします。馴れ合いになってはいけないことがあると思うんですね。先生の家に上がっておけい古をさせていただく。それは遊びに来たんではない。おけい古は厳しいけれども、終わった後は、優しいお姉さんだったりするのが先生であって。いろんなところにけじめがあって、それが積み重なって、関係がちゃんと結ばれると。
金子 おっしゃるとおりですね。
市川 むすめ歌舞伎は、ひとつの目標があるんです。(出雲の)阿国からずっと、多く女性の芸能者は社会のなかで誤解を受けながら繋がってきている。今でこそ伝統芸能は世界に誇る芸術だといわれますけど、やはり男性と差があると思うんです。ですから私たちは、舞台の上でも伝承する技をお見せすることを心掛けたいと。
金子 名古屋は昔から芸どころといわれて、舞台の上だけじゃなく、裏方さんとか常磐津(ときわず)とか、厚みがまだありますからね。それがあったから(むすめ歌舞伎は)できたんじゃないかと。
市川 そうなんです。いろんな方がみえる、とても豊かな場所なんです。文化不毛なんていっていますけど、他の土地に行きますと、「名古屋はもっと誇ったほうがいいなあ」と思います。名古屋の文化を皆さんがきちんと誇りに思って、育てて、厳しい鑑賞者として支えてくださるといいですね。

金子 名タクをよくご利用いただいているとお伺いしましたが。
市川 はい、名古屋っ子ですから。
金子 ありがとうございます。
市川 名タクさんには、嫌な思いをしたことがありません。ツインタワーができる前、名古屋駅前から乗るタクシーが随分怖かったときがあるんですね。だから遅い時間のときは、名タクさんを選んで乗って。
金子 他都市に比べますと、名古屋は安全になりましたね。名古屋タクシー協会が努力していますので。
市川 変わりましたよね。タバコ吸っていらっしゃる運転手さんもほとんどいなくなりましたし。
金子 わが社は禁煙車をご用意しておりますので、ぜひお申し付けください。お仕事柄、タクシーはよくご利用になられるんでしょうね。
市川 はい。着物で移動するときはだいたいタクシーですね。知らない町に行きましてもタクシーに乗ると、土地の様子が運転手さんで分かります。
金子 ですからよく私どもは、営業係(乗務員)に言うんです。よそから名古屋に来た方に、それなりのおもてなしをしなさいと。
市川 そうですよね。どなたでもそうですけど、自分の心持ちは人に伝わりますね。ですからなるべくいい空気をいただいて、いい移動をしたいというのがありまして。私たちも見ていただいた方にいいエネルギーをお渡ししたい。タクシー車内でもいいエネルギーをいただいて、降りてから「よしっ!」なんて、ありますからね。
金子 営業係によく申し伝えておきます(笑)。タクシーで、何か印象に残るご経験はございますか。
市川 私はよく行き先を間違えるんですよ。瑞穂区に行くのに、どうも様子が違うなと思っていたら、町名を間違えてたりね。でも運転手さんは、雨の中を濡れながらいろんな人に聞いてくださって。「間違いなく届けなきゃ」という使命感に助けられているんですね。
金子 なるほど。
市川 舞台もそうなんです。早ごしらえってありますでしょ。例えばきれいなお姫さまで出てから、数分の間に衣装を替えて、お化粧を全部変えて、鬼になるんですね。これは私一人の力ではできないんです。そういうときプロの裏方さんは、てきぱきやって、時間通り、いい気持ちで舞台に送り出してくれるんですね。

市川 今日はお願いがあるんです。タクシーの中で、ぜひ伝統文化のお話しをしていただけたら。例えばむすめ歌舞伎は名古屋で花開いている伝統芸能ですと、車内でお伝えしていただけると、大変うれしいなと思って。
金子 何かの折に、そういうお話ができるといいでしょうね。タクシーというのは地域社会と一緒に育っていく面がございますからね。
市川 それから車内で、邦楽も聞けたらいいなと思っております。胸のすくような三味線の心地いいものとか、小唄の色っぽいものとか。いい音楽がかかっていると、フッと気持ちを一服させていただけますね。
金子 そうですね。検討いたします。この先、公演のご予定はございますか。
市川 10月9日に、邦楽の会が中電ホールで開かれます。むすめ歌舞伎のメンバーも全員出演いたします。それから今、ロシアのオムスクというところの州知事から公演のご依頼がありまして。
金子 ほう。
市川 知らない所ですからね。「オムスクってどこなの?」「きっと寒いのよ」って(笑)。大学でワークショップをして、その後公演するというような。若い人たちが行くことができるようにと準備しているところですが、どうなりますでしょうか。
金子 ぜひ頑張ってください。今日はありがとうございました。


いちかわ・おうか
1959(昭和34)年、名古屋生まれ。祖母が校主を務める中部邦楽総合教室で育ち、2歳から常磐津の手ほどきを受ける。67年、中日劇場で初舞台。83年、「名古屋むすめ歌舞伎」結成、翌年に旗揚げ公演。92年市川宗家から市川櫻香を許される。国内各地で舞台を踏む他、2002年にはオランダ・ベルギーでも公演。歌舞伎のほか日本舞踊、鳴物、常磐津、長唄と広くこなす。受賞多数。

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