この記事は2006年6月のものです。現在の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。

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山村 周二(北部営業基地)
 2年前まで観光バスの運転手だった。タクシーと違って、バックミラーにはいろんなお顔がひと団体も映りこむことになる。

 団体には小学校の遠足もあれば修学旅行もある。町内会もあるし企業の慰安旅行もある。行く先も日帰り観光から2泊かけての長距離ツアーまで千差万別。それを15年間勤め上げた。その間数え切れないお客さまとの出会いがあったことになる。

 観光バスの運転士は安全運転だけが仕事ではない。なにしろ道中が長い。お客さま同士が初顔合わせというツアーも多い。おまけにバスガイド嬢が不慣れな新人という不運が加わる場合もある。

 そこで休憩地ではお客さまと話をし、要望を聞き出してガイド嬢とのパイプ役に努める。ツアーを楽しく盛り上げるために、目立たぬよう影働きをするのである。

 もちろん長距離運転だから自分自身の体調管理にも神経を遣う。スキーツアーでは、タイヤチェーンも装着しなくてはならない。バスの後輪は2本づつセットになっている。チェーンもダブルで重さが40キロもある。それを一人で装着するから、体力も要る。

 それでも参加されたお客さまの楽しそうな笑顔を見ると、風呂上がりのように疲れがほぐれる。感謝の手紙をいただくたび、この仕事を続けていてよかったとしみじみ思うのである。 

 バスからタクシーへと乗り物は変わったけれど、このお客さまサービスの姿勢だけは変わらない。なによりバス時代の経験で各地の観光情報や道路地図が頭に入っている。週末のドライブを考えているお客さまとは、話題も盛り上がるし、ささやかながら役立つ情報提供もできる。

 名所旧跡など歴史の舞台にも詳しくなった。これも観光バスでの経験のたまものである。たまたま名古屋観光に訪れたお客さまには案内役を買って出て大変に喜ばれた。

 その観光や歴史の知識をもとに、目的地までの退屈しのぎにと、クイズを出題したりもする。

 という具合に、あれこれと工夫を凝らしてきたが、お客さまのためといいながら、なんのことはない、ほかならぬ自分が一番楽しんでいることに気がついた。

 せっかく縁あってお乗りいただいたのである。車内でいい時間が過ごせるよう、私の楽しみにせいぜいお付き合い願えればうれしいのだが。



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