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大橋 道広(西部営業基地)
ハンドルを握って38年目になる。入社した1970年のころはマイカーブームはまだ先の話で、名古屋も市電の時代だったから、速くて便利なタクシーは人気ものだった。
当時は名タクにも「小型」があって、料金は100円だったと思う。みんなで乗れば電車賃より安い。学生や主婦も大いに利用してくれた。
ただ、このお値打ちな小型も夏の坂道だけは泣きどころだった。 当時の小型車の冷房はエアコンではなく外付けのクーラー。お客さまを3人乗せるともういけない。エンジンをいくらうならせてもクーラーを効かせたままでは坂をのぼらない。で、窓を全開にして汗をふきふき長い坂道を走るのである。お客さまも心得たもので、扇子をあおりながら平気でおしゃべりを続けていた。
長いハンドル人生、思い出には事欠かないが、仕事だけではなく生活にも弾みがついた出来事といえば、写真との出会いだろう。
20年前、同僚に誘われて会社の写真部に入部したのである。以来、のめりこんだ。
写真部ではモデルや風景の撮影会を開いて、出来栄えを先生に審査していただく。こうして腕を磨くのである。上達すると欲が出てくる。今度こそイメージどおりの写真をと、思いが高ぶってくる。 そのうちテーマらしきものが固まってきて、同じ被写体を追いかけるようになる。
とりわけ富士山には心を奪われた。いつ訪れても山の表情が違う。だから出かけるのが楽しみでしかたがない。厳冬の山中湖畔や、あるいは伊豆の山中に陣取って、日の出の朝焼けをねらう。大荷物の撮影道具を抱えて、氷点下10度の寒さに震えながら夜明けを待つ。これが苦にならないのである。
だからカメラ好きのお客さまと盛り上がらないわけがない。
JRの駅までのはずが、話に夢中のあまり岐阜県のご自宅までお送りしたこともある。 もちろん乞われれば、撮影法など知る限りのアドバイスもさせてもらうし、花火や植物などの自作の写真のプレゼントもする。おかげで毎年開く名タクの写真展をのぞかれるお客さまも増えてきた。
この7月には22回目の写真展「非番の詩」が始まる。目下の楽しみはその作品の製作である。むろんお客さまへ宣伝もと思うからハンドルを握る手にも力がこもる。カメラだけに仕事にも生活にもピントがうまく合ったのかどうか。この熱中気分、なかなかさめそうにない。 |
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